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彼女の夢 「私は毎日あの人に会いに往くの 私以外には誰も来なくなったけどいいわ 私は貴方が好きなのだから…」 私達の楽園 → 其処は私達がいる世界 辺境の村には二人の恋人 → 其処には私達が 朝焼けが照らす道...朝日が私達を導く… 貴方の眠る場所...愛が私を焦れさせる… 「嗚呼...私の愛しい――」 僕達の楽園 → 其処は僕達がいる世界 辺境の村には二人の思い人 → 其処には僕達が 彼女の濡れた道...愛が僕達を導く… 君の眠る秘所...望が僕を焦らせる… 「嗚呼…僕の愛しい――」 「私は幸せよ...こんなにも優しい彼が一緒に居てくれるから… 嗚呼...私は彼ともっと一緒にいたい...どうすればいいのかしら… そうダ...彼はワタシノモノニナッテモラオウ…!」 私の楽園 → 其処は貴方がいる世界 荒れ果てた野には一つの石 → 其処には貴方が 夕焼けが照らす道...夕日が私を導く… 貴方の眠る墓所...腐臭が私を遠ざける… 「ネェ...貴方ハ変ワッテシマッタノ?」 私の楽園 → 其処はワタシのいない世界 辺境の村には一人の娘 → 其処にはワタシが 月光が照らす道...月が私を導く… 貴方の眠る墓所...思い出が私を急がせる… 「ネェ...私ハ変ワッテシマッタノ?」 「とある辺境の村でとても奇怪な出来事が起きた… それは一人の男に始まり...男の家族...友人...強いては村人ほぼ全員が殺されてしまったという… 我々は...その奇怪な事件の真相を知る為辺境の村へと出向いた…」 緋色に染まる道...血が我々を導く… 彼女のいる場所...危機が我々を急がせる… 世界の楽園 → 其処はワタシのいない世界 朽ち果てた大地にはたくさんの石 → 其処には私達が 「我々は...唯一生き残っていた『彼女』が村人を殺したのだと悟った… 彼女の眼は恐ろしく...数多の戦争を生き抜いた武士までもが恐怖した… 我々が到着した頃には既に...彼女は...コワレテいたのだ… 悲しげな表情(カオ)をした彼女は言った…」 「アナタタチモ――オナジナノ?」 「ワタシハマイニチアノヒトニアエルノ コナクナッタ人タチモそこにハイタワ 私はイマ...とても幸セよ……」
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天翔る彼女たち(完結) 天翔る彼女たち(完結)戯言屋さんのまとめ 生ログ 参加方法について1.兵科を選択する 2.成功要素を1つ考えておく その他の属性 判定の流れ1.GMから科を指定しての難易度が提示される 2.PLから前提変換を提案する 3.最終難易をその科の人数で削って足りなかったらその科の人が成功要素を提出する 提出書式について 提出場所について 兵科・成功要素の変更について 兵科の人数調整について FAQ ゲームは終了しました。ので、参加方法などは後ろへ回します。 戯言屋さんのまとめ 雑多なコメントがないので見やすいかと。 天翔る彼女たち (まとめてログ閲覧用) 生ログ 03/07 天翔る彼女たち 第一回目 04/04 天翔る彼女たち はるな第二の航海 04/25 天翔る彼女たち はるな第三の航海 05/26 天翔る彼女たち はるな第四の航海 05/30 天翔る彼女たち はるな第五の航海 06/02 天翔る彼女たち はるな第六の航海 06/06 天翔る彼女たち はるな第七の航海 06/09 天翔る彼女たち はるな第八の航海 06/13 天翔る彼女たち はるな第九の航海 06/16 天翔る彼女たち はるな第十の航海 06/20 天翔る彼女たち はるな第十一の航海 06/23 天翔る彼女たち はるな第十二の航海 06/27 天翔る彼女たち はるな第十三の航海 06/30 天翔る彼女たち 劇場版(前編) 07/04 天翔る彼女たち 劇場版(後編) "軍艦はるなの最後" 参加方法について 基本的には兵科を決めるだけで参加可能です。 1.兵科を選択する 選択された兵科は自動的にパワー6の成功要素とみなされるのでダイスを振ったりする必要はありません。選択できる兵科は6の時点で、作戦科、砲戦科、魚雷科、通信科、主計科、機関科、飛行科(パイロット)の7つです。 各科の特徴はGENZさんまとめより; 作戦科 だいたい参謀 砲戦科 主砲や対空砲を扱う 魚雷科 魚雷、機雷を扱う 通信科 通信、オペレートを行う 主計科 総務、会計、被服、料理など 機関科 エンジンを扱う。ダメージコントロール、整備等 飛行科(パイロット) システム253(機動兵器)を扱う です。絢爛舞踏祭の兵科ともだいたい同じです。 2.成功要素を1つ考えておく 途中で必要になった時に出すので事前に考えておくと焦らなくて良いです。なお、出さずに終わることもままあります。 その他の属性 特に決める必要はありません。特になければ、名前も性別もPLそのままです。 判定の流れ 簡略化されたAマホの判定の流れに沿います。 1.GMから科を指定しての難易度が提示される 例:エンジンを稼働させる。機関科で難易10 など。 2.PLから前提変換を提案する 例:○○したら難易が下がりませんか?と質疑して、難易5まで下がった など。 3.最終難易をその科の人数で削って足りなかったらその科の人が成功要素を提出する 例:機関科に対する最終難易5に対して、機関科の人数が5人であれば、兵科はそのままパワー6の成功要素扱いなので自動成功になります。人数が3人しかいないと残り2を削らないといけないので、成功要素をその科の人が2人出すことになります。 提出書式について 成功要素を提出する場合は、成功要素と提出事由を並べて書きます。固定の書式はありませんがだいたい以下のように書きます。 十五夜:【電子機器についての専門知識:6】 古い機器でも駆使して解析します 提出場所について 提出はリアルタイムゲームなので、その場(Discord「Aマホな部屋」のコミュニティのチャンネル)でおこないます。 兵科・成功要素の変更について 兵科の選択はその日のゲームが開始時点でおこない、だいたい誰か(概ね阪さん)が集計します。そのゲーム中は固定です。 次のゲームで変えることはできます。成功要素も次のゲームで変えられます。 兵科の人数調整について 人数が少ない兵科がある場合、削れ切れなくなることはあり得ますが、そうならないように、最初のその宣言時に自発的に人数調整をしてます。 例えば、今日は魚雷科が少ないから、前回は機関科だったけど、今日は魚雷科に行きます~みたいな感じで移動して人数調整してます。 FAQ Q.そもそも「天翔る」って何? A.「天翔る彼女たち」というAマホのサプリメントの名称で、かつそれを使ったゲームのことです Q.どんなゲームなんです? A.士官候補生だったPCたちが、訓練中に襲撃を受けて遭難してしまい、原隊から遠く離れてしまったので訓練船である宇宙船「はるな」で生き延びねばと頑張る。というゲームです Q.これまでのあらすじをざっくり教えて? A. 第一話:起きたら謎の聖銃使いに襲われていた。撃退したけど正規クルーたちは全滅してたどうしよう 第二話:修理したりして現状把握を試みるぞ。艦橋は壊れてるし、艦のメインAIが記憶喪失で幼児化してるんですけどぉ?!そんな中敵の仲間は来るしで大変! 第三話:敵を沈めて難を逃れたのも束の間、原隊からはぐれた宇宙船には資源がないぞ。そもそも酸素が後一日も持たない。やばい。と、謎の工廠船と遭遇。助かったぞ、と通信するも、え、言葉が通じない?から諸々あって謎の水着回へ(何が起こった) 第四話:工廠船で補給を受けていたら、謎の敵(海賊)が襲ってきたぞ!突撃艦38はきついぞどうする!からの母艦攻撃で何とか乗り切ったぞ!そして、唐突なうどん回だ! Q. 地球を捨てて逃げている理由は何? A. 銀河帝国という勢力に追われているらしい。地球とか太陽系は帝国に支配されてるぽい Q. 七百年間に何があったの? A. 100年以上前にはるなが戦闘していたという以上の情報はない Q. 世界観について教えて? A. 天翔る世界はマドリアワールドの隣接世界線(未来か過去)とのこと。マドリアはCWTGに落ちているらしいので、つまり、天翔る世界も多分落ちてる。マドリアに出てきた聖銃使い(GHG)が月人と呼ばれていたので、今は亡き海ラヴとか中央世界あたりの派生世界の残滓の可能性はある。詳細は不明。 Q.今からでも参加できるの? A.毎回適当に再配置されるので全然大丈夫かと。 大まかに状況を把握しておくとまごつかなくていい 宇宙物のアニメとかを見ておくとイメージが掴めて楽しい くらい。絢爛舞踏祭やってると役職が割と分かるかも? Q.サプリメントはどこで配布されているの? A.Discordの配布場所で配布されてます
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低価格彼女とは、いわゆる二次元の彼女のことである。 現実の彼女を作るより、お金がかからないため、そう呼ばれる。 ただし、その彼女のグッズを買うことに命をかけると一転して「高価格彼女」となる。 1/1スケールのフィギュアともなると、20~30万円ぐらいは下らない。 パソコンとインターネットが自由に使える環境であれば、彼女の画像を回収して自己満足することも可能。 二次元ってすばらしい! 関連項目 二次元
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懊悩彼女Side-S (「偽装彼女」シリーズ・短編) 着てきたものは、一度すべて脱いでしまった方が踏ん切りがつく。 ちょっと前に改装でもしたのだろう。駅構内だというのに、多目的トイレの中はきれい なものだった。 ベビーベッドを引き出しバッグを乗せる。大きめのビニール袋を出して、手始めにブレ ザーのボタンを外した。しわにならないように、丁寧に畳んでしまう。 つとめて何も考えないようにしながら脱いだスニーカーの上に乗り、腰のベルトを引き 抜きスラックスから足を抜く。ちょっと寒いけれど、靴下も同じように。 ネクタイは結び癖を伸ばしながら丸めて、ワイシャツもアンダーシャツも脱いで袋にし まった。 振り返る鏡に映るのは、細い首筋につややかな黒髪を這わせた少女めいた顔の…下着一 枚の若い男の姿。 無駄な脂肪も過剰な筋肉の凹凸もない体つきは、女性だったらさぞかし好まれるだろう が、そこにあるのは生っ白い肌をした男子高校生の自分自身だ。 自然に見えるよう整えた、形の良い眉をひそめる男に背を向ける。黒のボクサーを脱い だ後を、真正面から見たくないからだ。 脱いだ下着も袋に入れて、バッグの中身を出したスペースにしまう。ベッドにのせたの は、ひとまとめにした服の入った別の袋だ。 結んだ口をほどきつつ自身の身体を見下ろす。やや痩せ気味ではあるが均整の取れた裸 身に、一つだけこの年齢には不釣り合いな箇所が目についた。 引き締まった下腹のさらに下…成熟した男性器の付いた股間は、子供のように毛の一本 もない。常に処理しておくよう命じられているからだ。 溜め息をつき、袋の中に手を突っ込む。昨晩順に着替えられるよう詰めたので、目的の ものはすぐに取り出せた。 しかしそれは、先程脱いだものとは少し形が異なっている。 白地に紺の細いストライプの入った、シンプルなデザインのそれらは、どう見てもブラ ジャーとショーツ…男の着るものではない。 しかし自分は躊躇することなくヒップハングのショーツに足を通し、身体の前でホック を留めたブラジャーをずらしながら引き上げストラップを両肩にかけた。 振り向けば、下着を身に着けた…少女には、まだ少し無理がある。 あるべき膨らみのない胸元で健気に丸いラインを描く紺のストライプは、なんだか見て いて申し訳なくなるし、第一ショーツの前が女性にあるまじき隆起で突っ張っている。 しかし自分は女性の身体になりたいわけではないので、鏡の中の姿に密やかな満足感を 覚え、さらなるそれを得るために再び手を動かした。 次に取り出したのは、柔らかな手触りの白のブラウス。合わせの両側や前面の切替えの 内側に細かく共布のフリルが施されていて、上品な可愛らしさを醸している。 腕を通してツルツルしたボタンをはめていく。U字型の切替えは胸の一番高いあたりに 付いているので、ブラジャーに元から入ったパッドだけしかなくてもさまになる。 ピンクと黒のチェック柄の、どこぞの制服のようなプリーツスカートを出し、これも身 に着ける。裏地がないので、ミニ丈ではふとした拍子に捲れてしまわないか心配になる。 気を付けなければ。 慎重に片足ずつ、薄いグレーのニーソックスを穿く。前に穿いた黒いソックスは腿の半 ばまでくるものだったが、こちらはちょうど膝のすぐ上までの長さだ。 スニーカーを履き直し、また姿見に向かう。 白い頬をうっすら上気させた、「女の子」がそこには居た。 セミロングの黒髪が肩にかかるフリルブラウスは、整った顔の清楚さを引き立て、ピン クのミニスカートの下から伸びる細い両足は、ニーソックスによって年相応の色気を主張 している。 薄い胸板もショーツだけでは隠しきれなかった性器も、可憐な布とすらりとした腿によ って、華奢な少女の身体つきに変わった。 扉や壁越しに聞こえていた、電車の音も喧騒も忘れ、しばし自身の姿に見入る。 少女の服を身に着けた、男の自分。「生真面目な模範生」という周囲からの認識からは 外れるこの格好に、自分自身に欲情を抱く自分。 『可愛いね』 『最低の変態だ』 相反するセリフは、どちらも自分の求めるものだ。 「女の子」として愛されることと、それを断罪され虐げられること。どうしてこんな性 癖になったのか自分でも分からないけれど、この甘美な妄想に浸る間はたまらなく満ち足 りているのだ。 もっとも、すぐに我に返るまでの短い時間ではあるが。 陶酔の…夢の後に訪れるのは罪悪感と、これから味わうであろう屈辱に対する不安や怯 えに…あとは何があるだろう? この格好は今日の自分の…相手を楽しませるための衣装だ。 着替えで乱れた髪を整え、耳にかけていた分を頬に流す。黒髪が幾筋か覆うことで、エ ラはないがやや鋭角的な輪郭が柔らかな印象になった。 化粧は命じられなかったが時間があるのでバッグからポーチを取り出す。軽く睫毛を持 ち上げ、乾燥や日焼け予防も兼ねて薄くフェイスパウダーをはたきリップを塗り直した。 少女「めいた」顔は、その服装と演出によって変化していく。 荷物をまとめ最後に姿見の前に立った頃には、どこに出してもおかしくない(はずの) 「女の子」が映っていた。 яяя 待ち合わせの十分前にメールが来た。いつものように一言返信し、指示通りコインロッ カーに携帯ごと荷物を預ける。 上着は持って行くと言われたので、少し涼しいブラウスのまま指定された駅ビル内の本 屋に入った。 スカートの裾を気にしながらも、背筋を伸ばして歩く。いつもより少し歩幅を狭めて、 須藤豊という男の名残を消してしまう。 ここに居るのは、真新しい服で身を飾った少女だ。店員や…予備校生だろうか、客の若 い男らが自分の顔からニーソックスに包まれた足まで見つめてくる。気付かないふりで店 外の見える雑誌の棚へ。 男女のファッション誌がいくつも陳列されている…少し迷ってから、多分十代向けのも のと思われる一冊を取った。もちろん、今の自分の格好にふさわしい女性誌。 目移りするような、華やかな服が所狭しと紹介されている。 今着ているものも含め、自分が週末に身に着けるものは相手と半額ずつ出し合うことに しているのだが、アルバイトをしている彼とは違って自分が毎月自由になる金額は五千円。 趣味らしい趣味がないのでいくらでも切り詰められるが、それでも相手のペースに合わせ るには限度があった。 相談の結果、毎月の予算を定めることにしたため、失敗しないようにこうして時々情報 を集めるようにしている。 まだ着るには早い、春物のシフォンや袖口に凝った飾りの付いた七分袖のカットソーを 眺める。薄手のロングセーターにレギンスを合わせているのも可愛らしい。 華やいだピンクやパープル、淡いグリーンを身に着けた自分を夢想してみる。頭の中で は自分は何の気負いもなくそれらを着こなし、羨望のまなざしを集めていた。自分のよう な「女の子」を、自分と同じくらいの若い男が放っておくわけがない。そして… 「こーゆーの、好きなの?」 びっくりして顔を上げると、自分のすぐ右側に若い男が立っていた。先程のメールの相 手ではない。 二十歳くらいだろうか。黒髪を短く刈り上げて、鋲だのベルトだので着飾った細身の男 。メンズの香水と煙草の匂いが濃く混じって、むせそうになるのをどうにか堪えた。 親しげな笑みを浮かべてくる相手に、見覚えはない。首を傾げつつも何も言えないでい ると、男は言葉を継いだ。 「背え高いねぇ…もしかしてモデルさん?」 慌てて首を横に振る。どうしよう、店の中で声をかけられるなんて思ってなかったし、 だからこそあいつもここを指定したのだろうに。 「なんだ、もったいない…ほら、これなんかキミのが似合いそうじゃん?」 誌面のモデルを指差されても、なんと返すべきだろうか。 黙ったままの自分に脈ありとでも見たのだろうか。脈どころか大迷惑なのだが、彼はい よいよ顔を近付けてきて、自分の目をじっと見つめてくる。 「今、一人?どっかいくの?」 今まで声をかけられた時は「すいません、俺男なんで」と苦笑すればすべてが終わった。 しかし今はそれをすれば自分が異常者だし、この姿では通用しない。 往来だったなら、そのまま振り切れば良いのだが、来た通路をさえぎるように立たれて はそれも叶わない。 「…あ、ケーカイされちゃってる?てゆーか友達と来てんの?それとも彼氏?」 へらへらと笑いながら、またしても返答に窮する質問をしてくる。警戒レベルは注意報 どころか警報クラスだが、やっぱりそれも言うわけにはいかない。 友達?いやいや、あんな画像を盾に自分にこんな格好をさせるような相手にそんな言葉 は合わない。彼氏だって?相手の申告を信じればどちらも同性愛者ではないし、あいつと は違って自分は恋人ごっこを楽しんでなんかいない。 「……ええと…」 気のきいた返しが浮かばない自分に、もどかしげに男は続けた。 「彼氏持ちならあきらめるからさぁ…俺ぶっちゃけナンパ初めてで、ちょーキンチョーし ちゃってんの。外から見つけてフラフラ来ちゃって、今こうしてマトモに見てもあんまし 可愛いから、すっげいまドキドキしてる」 立て板に水のように発されるそれが嘘なのは見え見えだが、そのセリフ自体に胸が高鳴 ってしまう。 この男は、自分が「女の子」…それもわざわざ口説く価値のある対象として認識してし まっている。自分が男だなんて、下着まで用意して女装するような変態だなんて、夢にも 思っていないのだろう。 困惑しつつも静かな高揚を覚えてしまう自分の肩に、親指と中指にごついリングをはめ た左手が伸びる。 「…そっちもキンチョーしてるの?かーわいい」 「その…あの、困ります」 身を引くと、男の手は宙を掴む。狭い店なのに、どうしてこういう時に限って店員も、 他の客も来ないんだ。 「何が困るの?一人なんでしょ?」 「…ひ……ひと、待ってるから…」 「じゃあその子も一緒で良いからさ。それに載ってるみたいな服でも見に行かない?」 こんだけ拒否してるんだから、空気読めよ見切りつけろよ。 女子ならいざ知らず同性にしつこく口説かれた経験はないので、ここは「女の子」とし て何と言えば良いのだろうかと視線を泳がせる。 「あ」 男の後ろから見慣れた顔が覗いた。ワックスでセットした茶髪の、午前中はネクタイを 緩めたブレザー姿だった高校生。 すぐ目の前に居る男の肩越しに、彼とは種類の異なる軽薄な笑みを浮かべた唇が、自分 に尋ねる。 「友達?」 別に待ってはいなかったけれど、焦げ茶のファーブルゾンを手にした待ち人が立ってい た。 яяя 村瀬慎吾を同級生の名前としてでなく個人として初めて知ったのは、入学して最初の球 技の授業前だった。 女子の担当教員が急遽出張になったので、その日だけ男女合同になったのだが、クラス の大半がグラウンドに出ても朝指示された準備をしないので、仕方なく自分が鍵を借りて 倉庫からバレーボールの籠を出そうとしたのだった。 倉庫特有の、砂や汗のすえた匂いをよく覚えている。重い籠を動かしていたら、シャッ ターの段差に車輪が引っかかってしまい、それと格闘していたときだった。 『手伝おっか?』 柔らかくかけられた声に聞き覚えがないので、誰かと振り返ると、 『あ…なんだ、須藤だったか』 当てが外れたというか、ばつの悪そうな表情を浮かべる相手が彼だった。 『…なんだって?』 聞き返すと誤魔化すように手を振り、苦笑する。 『いや、後ろから見て女子だと思ったから』 『……それは、残念』 女子だったら親切にするだなんて、あきれた奴だ。しかめた顔を見せないよう背を向け て再び段差に取りかかる。 『……暗いんだけど』 真後ろに立たれたので足下が影になって、どちらに力をかければ一人で動かせるか分か らない。 『あっそ』 愛想のない自分の声に、鼻で笑う。教室や女子の前では見せてないものだった。学期始 めの自己紹介で親しみやすそうな話し方をしていたが、おそらくこっちが本性なんだろう。 『しゃーないなあ。心証悪いから手伝いますよ』 先程までの気安さからは打って変わって大儀そうに倉庫の奥へ行き、籠を掴む。 『押すから引き上げてよ』 言われなくても、まさかこのまま押しつぶしたりするほど人でなしじゃない。 男二人がかりでは楽に一つ目を外に出せたので、流れでもう一つの籠に取りかかる。 『お前、これ先生に頼まれたん?』 『内山が休みだから、今日』 お前の仕事なのかと尋ねられ、自分と同じ中学だった男子の体育係の名前をあげる。 『あ…あーあー、うん。あいつね』 絶対思い出せてない顔でうなずかれるが、どうでも良いことなので指摘しない。 『そう。だから』 『…も一人の体育係って、芹澤さんじゃなかったっけ?』 女子の名前はすぐ覚えたらしい。自分は顔までは一致していないが。 『そうだったかな』 『だったかなじゃなくてさぁ…別にお前が率先してやらなくても、ほっとけば授業始めに 皆でさせられるだろ?なんだってこんな余計な苦労すんの?』 そうやってやきもきしてて結局やるのなら、気付いた時に気付いた人が動けば良いと思 うのだが、それを言うと肩を竦められてしまった。 『…わっけ分かんね。さすが須藤君は違うね』 苦笑混じりのセリフに、まだ嫌味の一つも言うのかと黙っていたら、双方無言のまま作 業が終わった。 シャッターを降ろし鍵をかけ、グラウンドへ戻る相手に声をかける。 『…ありがとう』 いかにもな社交辞令は、やっぱり小馬鹿にしたように鼻で笑われた。 彼と連絡以外で個人的に話すのは、それっきりになるはずだった。 セーラー服を着て初めて外出した先で、こいつに呼び止められるまでは。 その後、思い出したくもない色々があって今に至る。 яяя 「友達?」 そんなわけないのは分かりきっているのに、わざわざ尋ねるのは目の前の男への牽制だ。 真後ろから聞こえた声に男は心底驚いたような顔をして振り返る。 ビンテージとか、よく知らないけどテレビで見るようなダメージジーンズに、重ねた無 地と柄のシャツをしっかりしたカーキのコートから覗かせている。 そうか、こういうのが「ハズす」ってやつなのかと、どれも似たり寄ったりな私服ばか りの自分は思わず状況を忘れて観察。 「…こいつに、なんか用?」 同学年の女子からの評判を除けば特に問題行動もないのだが、背の高さに加えて仏頂面 と、いかにも沸点の低そうな彼の雰囲気に初対面の男はたじろいだ。 「…なんだ、彼氏持ちなら言ってくれれば良かったのに」 弁解しながら避けるように離れて行く。さっきまでの粘り強さが嘘のようだ。 雑誌を開いたままだったことに気付いたところで、上着を手にしたまま男を見送った相 手がこちらを見る。 「結構しつこくされてなかった?外から見えたんだけど」 ニヤニヤしながらガラス張りの壁を指され、揶揄されたことに頬が熱くなった。 「っ…は……早く来ないから、だろっ!」 店内なので潜めた声で相手をなじる。困惑する様を見られていたのが、とても腹立たし い。 「だってお前、校外実習とかで女子よりも声かけられ慣れてたっぽいから」 それは、こんな「女の子」でなかったからだ。さっきとはわけがちがう。 「『言えば良かったのに』とか言ってたけど、何?『アタシ一人で超ヒマなんだけど』と でも言ってたの?だったら俺、お邪魔だった?」 「っ…ちゃんと言った!言ったけど、なんか離れてくれなかったんだよ!」 「じゃあ、なんて言ったん?」 相手の底意地の悪さに、さっきの男に対してとはまた違った苛立ちを覚える。 「……ひ……ひと…をって………」 「人ぉ?」 いよいよ楽しげな表情を浮かべてしまう。こうなったらもう、何を言っても藪蛇だ。 「ダメじゃん。ユカちゃん可愛いんだから、ちゃんと『彼氏待ってます』って言わなくち ゃ、ね?」 それが言いたくないから困ってたというのに、何をしてんだと逆に責められてしまう。 だんまりを決め込む自分に気付かないのか、広げた誌面に目をやりつつ相手は続けた。 「ユカちゃん可愛いから。そんなボンヤリしてたら連れてかれちゃって、変なことされち ゃうよ?」 勝手にページをめくりながら、「それとも、そうなりたいのかな?」とからかってくる。 はた目には熱烈な惚気文句に、棚の向こう側に来た別の客がこちらを見てきた。 …「可愛い」。 そんなこと、しかも人前で連呼しないで欲しい。 人目が気になるのももちろんだが、その言葉を…自分が小さい頃から憧れていたそれを かけられる度に、自分がどんな気持ちになるかも分かっていないくせに。 小さい頃…叔母が家を出るまでその言葉にどっぷり漬かっていた自分は、長じてからも 「可愛い」と称賛されることを、「女の子」として愛されることを心の奥底で望んでいた。 本人は何気なく言ってるのだろうが、その度に心臓を掴まれるような、胸の奥を揺さぶ られるような、そんな異様な興奮を覚えてしまうのだ。 持って生まれた容姿を、憧憬のまなざしで見られたいんじゃない。可愛らしいものとし て、愛されるべきものとして扱って欲しいという思いが、それを裏切る経験によって歪み 倒錯していった。 結果として、こうして「女の子」として扱われること、そしてそんな趣味を持った自分 をなじられることに欲情してしまう、そんな存在になってしまった。 甘くささやかれる「可愛い」という単語は、言ってみれば隠していた自分を覚醒させて しまうスイッチのようなものなのに、それを知らない相手はいとも簡単に連呼してくる。 「……言わない、で…」 掠れた情けない懇願になったのは、店内だから声を抑えているからだ。こんな奴の発言 に動揺してなんかいない。 「どうして?ピンク似合ってる」 プリーツスカートの裾をつままれ、振り払いたいが雑誌を手にしてるのでかなわない。 「……はな、して…」 「離せ」と言いそうになるのをどうにか堪える。 「はいはい。んじゃ出るから、買わないならそれ戻せよ」 言われなくても分かっている。片腕にかけたブルゾンを抱え直す相手に背を向け棚に雑 誌を戻す。折り曲げてしまわないように、他の段の雑誌を押さえながら元の位置に慎重に 立てた。 「…っ…!?ちょ……」 無防備になった背後に回った相手の指が、服越しに背中を撫でてきた。驚きというより もくすぐったさが大きく、思わず首を竦めたら開いた手で肩を掴まれてしまう。 「…ぁ……う…」 背中に触れる手の動きは意志を持ったものになり、今度は中に着けたブラジャーのライ ンにそって左右になぞってくる。 「な…何して……?」 「シマシマ、丸見え~」 「っぁ………!」 相手のセリフに思わず見下ろす白いブラウスの胸元には、たしかに中の下着のストライ プがうっすら透けてしまっていた。さんざん鏡を見直してたくせに、気付けなかった自分 の迂闊さが憎い。 「これじゃあさっきの奴も声かけたくもなるよねえ…わざと?わざとですかぁ?」 後ろから腕を回して、今度はブラウスを浮かせるカップの縁をいじってきた。さわさわ と胸板や乳頭をかすめる裏地の感触に、自分でそこを慰めたことを思い出し身体が疼く。 「ひゃ、あ……ちがっ…」 公共の場にはきわどいスキンシップに、品出しに自分たちの向かう棚の向こう側に来た 店員の若い男とまともに目が合ってしまった。こちらをあからさまに見られて、顔から火 が出そうになる。だいたい、なんで今さら来るんだ、今さら! 「や、やめ…やめて、だめっ!」 羞恥と愛撫とに震える唇を叱咤しつつ、身をよじって相手の腕から逃れる。小さな声で 拒否できたのはある意味奇跡だ。 精一杯睨みつけるのだが、へらへらと軽薄な笑みを浮かべる相手に反省の色はない。 「……早く、それよこせ」 焦げ茶の上着を指差し、どうにか毅然と言うことができた。 яяя 電車に乗って連れて行かれたのは、以前服を買ったのと同じ駅ビル内のアクセサリーシ ョップだった。 飾るという商品がメインなためか、照明からして目にチカチカするような華やかさがあ る店内のデザイン。いかにも「女の子」っぽい。 初めて足を踏み入れる店に緊張しているのがバレたのか、腕を組んだ相手が笑うのが分 かった。慌てて下を向き、興味が薄く見えるよう振る舞う。 「なんか好みなのある?」 そんなこと言われても、ついこの間まで叔母のセーラー服しか着ていなかった自分に、 女子高生の身に着けるものなんて分からない。それに、うっかりダサいのを選んで馬鹿に されるのも癪だ。 答えられず黙っていると、女性店員が自分たちに小さな籠を一つ差し出してきた。顔を 寄せ話しかけてくる相手と、それを拒まない(拒めないだけで、受け入れているわけでは ない)自分の様子は、さぞかし仲睦まじく見えたのだろう。非常に不愉快だ。 受け取りつつもディスプレイされた指輪だのバングルだのを眺めるだけで、手を出すこ とはできない。磨かれたスタンドミラーには困惑顔の少女の顔と、棚の商品を物色する男 の横顔が映っていた。 仕方なくいくつもあるネックレスやペンダントを一本ずつ見ていると、不意に身体を離 された。 「ちょっと、手ぇ貸して」 籠を持たない自分の右腕を掴むと彼はちょっと屈み、上着とブラウスの袖を捲った手首 に花やリボンのチャームの付いたブレスレットを巻いてくる。金具を留めると、自分の手 を押し頂くように両手で持ち上げてきた。 「けっこう似合ってね?…お前はどう?」 それこそ恋人に選ぶかのように角度を変えて眺め、尋ねてくる。 無理に合わせられた相手の瞳に映るのは、アクセサリーを試着し吟味しているという、 はたから見れば紛うことなき「女の子」の自分。 「……袖に引っかかるよ…」 ピンクゴールドのそれは確かに可愛らしくはあるが、細工部分が所々尖っていたり出っ 張っているので、今着ているブルゾンの袖口に穴を開けてしまいそうだ。それに毎月の予 算を考えると、ちらりと見えた値札は服に隠れてしまうものにしてはちょっともったいな い。 そう思って首を振ったのだが、相手は自分が着け慣れてないからだと思ったのか「最初 は邪魔にならないのがいっか」と笑いながら元に戻した。 「じゃあ、こっちはどう?」 手を引かれるまま、壁一面に下げられたピアスやイヤリングの前へ。どれがどれだか… というか、店員はこのちまちましたものをすべて把握しているのかと圧倒されてしまう。 「っひゃ!?」 突然髪をかき上げ耳朶をつままれ、裏返った悲鳴をあげてしまった。左手の籠を取り落 としそうになるが、なんとか堪える。 検診くらいでしかそこには触れることのない他人の体温に、ゾクリとしてしまったのを 懸命に覆い隠し尋ねた。 「な…なに?」 「ピアスとか、開けないの?」 黙って首を横に振ると、勝手に納得したようにうなずいてくれた。 「そっかー、お家キビしいんだ」 付き合いの悪いせいか誤解されがちだが、別に両親は厳格というほど教育熱心ではない。 リビングで中古ゲームをしていても「明日寝過ごすなよ」と一声かけるだけだし、連絡さ えすれば帰りが遅くなったって目くじらを立てたりしない。 でも否定せずに神妙な顔をしておく。耳に穴を開けるのが、なんとなく痛そうで怖いか らだという情けない理由を言わなくて済んだからだ。 右に二つ、左に三つ開いた相手の耳朶を見て、そんなにいっぱい付けて重くないのかと か、開ける時痛くなかったのかとか、そもそもピアスをつける時に間違えて違う所に刺し てしまわないのかとか、色々と興味半分不安半分な疑問が湧く。 …まさか、馬鹿にされるのが分かってて尋ねるほど浅はかじゃない。 「…俺の耳じゃなくって、商品見たら?」 視線に気付いたのかこっちを見てニヤニヤする。 「何?やっぱり気になるの?」 慌てて首を振る。視界の端にセルフピアッサーが入ったからだ。あんなホチキスみたい なので挟まれて、みっともなく泣き叫ばない自信がない。 「これなんかどう?」 籠に入れられたのは銀色のピアス…のはずだが、イヤリングの棚から取ったものだし、 第一針がない。 「マグピだけど、良さげじゃね?」 「マグ……?」 思わず聞き返してしまったことを、相手が笑うのを見て後悔した。 「磁石で、耳にくっつけんの。ピアスみたいっしょ?」 ああ、また馬鹿にされた。お前と違ってこんなのに詳しくなんかないんだから、仕方な いだろ。 自分の反応を面白がる相手の顔を見たくなくて、そのマグピとやらに注目する。たしか にピアスの針にあたる部分や、それを受けるキャッチにはそれぞれ直径三ミリくらいの丸 い金属がくっついている。 こんなので落ちててしまわないのだろうかとは思ったが、それよりも飾りとしての見た 目に心を奪われた。 小指の爪に収まるような小さいハートの右上に、ピンクのラインストーンの粒が一つず つあしらわれている。 当然ながらそんなデザインの装飾品は、今までの自分の生活にはないものだった。叔母 に色々着せられていた頃はまだ小学校に上がる前だったので、髪飾り以外のアクセサリー なんてしたこともない。 自分をより「女の子」にするのには、それはあまりに魅力的だった。 「…気に入ったなら、とりあえずキープしとこっか」 しばらく凝視してしまっていたようで、顔をあげると相手は苦笑しながら籠を取りあげ た。 狭い店内を二人で一周したが、結局レジにはそのハートのマグピを出した。 指輪の棚は、先客のカップルが長く迷っているみたいだったため遠慮したのだが、女物 のサイズが自分の手にあうか心配だったので構わない。 連れが会計している時、「女の子」はどんな顔をして待っていれば良いのだろう?棚の 商品を落とさないように、財布を出す相手の隣に立っていると、腰に腕を回された。 「あーあの、こいつに今着けちゃいたいんで、そのままで良いです」 「はぁい、かしこまりました」 値札ごとピアスの外袋を外しながら、二十半ばと思しき女性店員が自分にニッコリ笑い かけてくる。 「彼氏さん、優しいですねぇ」 優しいどころか脅迫してくるような男をそう認識されるのは甚だ不本意だが、そういう 設定にしなければ自分の立場が危うい。 渋々うなずく自分の心中も知らず、「照れちゃって」と店員の前でからかってくる。う るさい黙って金払え。735円だから、370円出してやる。 「じゃあちょっと鏡借りますね」 自分を恫喝している姿なんて想像もできないような、柔らかな声と笑顔を店員に向ける。 きっとこの人当たりの良さで、女子に眉をひそめられるような付き合いをしてきたのだろ う…別に自分には関係ないから、どうでも良いけれど。 店内の鏡の前に立たされたので手を差し出すが、買った物を渡してはくれなかった。 「お前不器用だから、着ける前に落とすだろ。大人しく俺にまかせなさい」 自分が憤慨する前にレジの店員が笑ってしまったので、何も言えなくなる。ここで強引 に主張するのも大人気ないので「そんなことない」と小さく返しつつ、ピアスとキャッチ をパッケージから外す相手の手元を睨みつけた。 髪を両耳にかけ耳朶に指を添えられる。温かい指先は不快ではなかったが、耳の下をく すぐられて思わず身震いしてしまった。 「くすぐったがり」 ささやくな。息が首に当たって、それこそくすぐったい。 早くこの拷問を終わらせて欲しくて、両目をギュッと閉じる。右耳朶の表裏に、ヒヤリ とした硬いそれらと、乾いた指の感触。軽く挟まれたと思ったら、右耳はそのまま次は左 の耳朶へ。 「…はあい、終わりました」 両肩に手を置かれ、仕方なく目を開ける。鏡面には、明るすぎる照明に目をしばたたく 自分と、満足げに笑みを浮かべる相手の顔。 「ほら、似合うだろ?」 肩を軽く押され、鏡に顔を近付けさせられる。 見慣れたはずのそれの中に映る別の色に、胸が高鳴ったのを覚られなかっただろうか。 真っ直ぐな黒髪の隙間から覗く白い耳たぶに、ちらりと光が反射している。ハートの銀 色と、ラインストーンのピンクが、顔を強張らせた少女をより「女の子」らしくしていた。 「…ぁ………ありがとぅ…」 他人の居る中、あんまり自分を熱心に見つめるわけにもいかないので、視線をどうにか 逸らす。 掠れた自分の返事に気を良くしたのか、相手はニッコリ笑って肩に腕を回してきた。 「今度は違う服で、ネックレスでも見よっか」 店を出て歩きながら尋ねてくる。それはつまり、首元が開いた服を着るということだろ うか。 本屋で見た軽やかなそれらを身に着け、店内にあったようなアクセサリーで飾った自分 の姿を想像し、わけもなくドキドキする。 頬が熱くなるのを誤魔化すように下を向いたのだが、相手は声をたてずに笑った。 яяя オモチャのような仕組みの割に、別の店でキャスケットや毛糸の帽子をかぶらされても、 ビルの外に来ていた移動店舗のワッフルを食べる時もピアスが外れることはなかった。 半溶けのザラメに付かないよう髪を耳にかける時、指先に触れた硬い感触に自分がそれ を着けていることに気を取られて、焼きたてのワッフルで舌を火傷しかけた。 相手がもらってきてくれた水を飲む時に、まさしくそれをする原因になったピアスを指 され「やっぱ可愛い」だの何だの言われ、むせそうになるのをどうにか堪える。 垂らした髪に隠れてしまってほとんど見えないだろうに、「アクセサリーを着けている」 という事実に妙な高揚を覚えていた。千円もしない、ちっぽけな装飾品だが、自分にとっ ては「女の子」であることを主張してくれる道具。 ショーウィンドーに映る自分の顔が明るいものになっていたのに気付き、慌てて無表情 を装った。隣を歩く相手に、気付かれる前なら良いのだが。 すれ違う人が自分の方を見る度に、今まで以上にどこを見られているのかが気になって しまう。 自分を魅力的な「女の子」として見てくれているのだろうか。そして…身に着けたこれ も、その一部として気付いてもらえているだろうか。 しかしその誇らしいような感触は、時間の経過とともに痛みに変わってしまった。 今まで何もしたことがなかった耳朶を長時間挟まれ続け、気にも留めないようなそこが ズキズキとしてきたのだ。 ネジ式のいわゆる普通のイヤリングだったらこっそり緩めることもできたかもしれない が、磁石なので着けるか外すかの二択しかない。 せっかくこんなものを着けられたのだからと我慢するのだが、両耳からの針で刺すよう な痛みは徐々にこめかみへの鈍痛に広がっていく。 それでも恥ずかしいのと弱みを見せたくないのとで、何でもないふりを装って堪えてい たが、腕を組んだ相手は当然ながら自分のしかめ面に気付いてしまった。 「…どうかした?」 自分がワッフルを頬張っている間、ずり落ちかけたニーソックスを直すついでに腿を撫 でるくらいしか今日はいたずらを仕掛けてこなかったので、不思議そうに尋ねてくる。 「なんでも、ない……」 首を横に振るのも頭に響くので、ぎこちない否定になってしまった。 案の定それ以上の追及はしなくとも相手は首を傾げたままで、その後同じやり取りを数 回交わしながら駅に向かう。 放っておいてくれれば良いものを、電車に乗ってロッカーから預けた荷物を出す頃には 強引に肩を掴まれ目を合わされてしまった。振りほどこうにも、意識の大半がピアスに… というか、痛みに向いているので叶わない。 抵抗すらできずに、しかし視線は逸らせる自分に心底不思議そうに尋ねてきた。 「マジでどしたん?ほんと、疲れたんなら戻ってサ店入る?金気になるなら一杯くらいお ごるからさ」 うるさい。無駄に気が回るなら、いっそその才能発揮してさっさと気付け。 いい加減くだらない意地を張っていたことを後悔していたが、今さら「初めて着けたア クセサリーが痛くてたまらない」だなんて、それこそ恥ずかしくて言えない。 早く、お前の家でもどこでも良いから、人目につかない場所に連れていってくれ。 そうしたらせめて、手を洗う時や抵抗するにでも「うっかり」外れてしまったと言い訳 ができるのにと、その一心で強張る唇を動かす。 「その…早く、家に行きたい」 なんとか平静を装ったはずの声は震えてしまっていて、当然相手は怪訝な顔をした。 「どうしたよ?なんかお前変じゃね?…連れ回されて具合悪くなったんなら送るから、今 日はもう帰るか?」 うわべだけとは分かっているが、そんな優しいセリフをほざかれてしまったら、弱音を 吐くなんて情けない真似ができなくなるじゃないか。親切の方向性を、こいつは思いっき り間違っている。 何も言えず俯く自分を探るように見つめていたのか、しばらく黙ってから相手が口を開 いた。 「…あ、ハート斜めんなってるよ。ほら」 まさしく自分の全神経が集中していたそこを、無造作に指で触れられた。チクンなんて もんじゃない、ズクリとジワリを掛け合わせて、さらにピリピリ感も足したような痛みに 全身が震えた。 「ぁつっ!…………!」 「…は?」 こちらとしては反射だったのだが、声を上げ身を引くという過剰な反応に奴が首を傾げ る。 「な……なんでもないっ!」 かばうように上げた右手を慌てて下ろし、ズキズキする右耳朶から意識を逸らしつつか ぶりを振るが、 「………もしかして、ソレが痛かったの?」 「っ!?…………」 ギクリと肩を震わせてしまったのは、十分に返事になってしまったようだ。 確信を持ったのか、下を向いた自分を覗き込むように身を屈め、目を合わせてくる。 「どうなの?ユカちゃん?」 もう駄目だ。顔をそむけたくても、ニーソックスを穿いた両足はスカートの中で固まっ ている。必死に歯を食いしばるのだが、一旦悲鳴をあげてしまったせいか今にも叫びだし てしまいそうだ。 相手に釣り込まれるように、震える唇が勝手に動く。 「………ぃ…いた、い……」 最悪だ。最悪のバレ方だ。 虚勢を張った挙句、子供のようになす術なく白状してしまうなんて。 相手はといえば、ロッカーから出したバッグを肩にかけたまま、ぽかんと自分の発言を 受け取っている。 きっとこいつは数秒後、大声をあげて笑い出すんだ。こうして自分の顔を見つめている のは、痛がっている、悔しがっている今の表情を後であげつらって馬鹿にするためなんだ。 往来で立ち尽くす、「女の子」になりきれないのにそれを望んでいる、無様な同級生の 姿はさぞかし面白い見せ物だろう。 何を…次はどんな目に遭わされるのかと耐えきれず目を伏せてしまうと、相手の指が今 度はゆっくりと髪を梳いてきた。 「外そっか」 思いの外穏やかな声音におそるおそる瞼を持ち上げると、目の前の顔はやっぱり笑って いた。 ただそれはいつもの小馬鹿にした笑い方ではなく…以前ファミレスで、自分が塾に行か なくなった情けない理由を聞いた時と同じ、それまでの態度が嘘のような優しいものだっ た。 「………は……?……」 「痛いんだろ?じゃあもう、無理すんなよ」 耳朶にひびかないよう注意深く髪を耳にかけ、自分よりも大きな手のひらで頭を撫でて くる。 「痛いのは外しちゃお。なっ?」 「……っ………」 …いつも、そうだ。 さんざん威嚇し、罵り辱めたかと思えば、こうしてみっともない姿をさらす自分を労る ような素振りを見せる。 自分を苛むのも、こうして「女の子」扱いするのも同じ唇で、同じ指を持つ…目の前の 男なのだ。 されるがまま身体を引き寄せられ、右耳を相手に向けさせられる。 「早く言えば良かったのに」 耳元でささやく声の後に、指がそこに触れてきた。 「っ……ぃ…」 「痛い!」とうめきたくなるのを必死に我慢する。ペラペラの耳朶に食い込むように貼 りついたマグピは、キャッチを外しても落ちてくれなかった。 「気付いてあげられなくってゴメンねえ。ちょっとしたら、ちゃんと腫れ引くからねぇ~」 小さい子供に言い聞かせるような口調に、通行人がちらりとこちらを見るのが目に入っ た。顔を赤らめる自分と、その両耳から外したアクセサリーをしまう奴とにほほ笑ましげ な表情を浮かべるのを見て、情けなさに腹が立つ。 …ああ、畜生、畜生! 行儀の悪い呪詛を心の中で唱える。対象はもちろん、そもそもこんなことになるきっか けを作った張本人のくせに今さら気付いた相手に。そして、この結果を予測できなかった 上に、よりにもよって最悪なタイミングでバレてしまった自分にだ。 パッケージに納めたピアスをバッグのポケットに勝手に入れて、その憎らしい一人は自 分の手をとった。 「…じゃあ、お待ちかねの俺ん家に行きますか?ユカちゃん」 痛みから解放されたことに、上の空のままうなずいてしまっていた。 яяя さんざん自分を苦しめた耳朶の痛みは、それが去ったかと思えば疼くような違和感とな った。 奴の家の洗面所で手を洗いながら、鏡に映るそこを確認すると、目立つほどではなかっ たが赤く腫れてしまっていた。金属アレルギーはないはずだから、あれで挟まれただけで 音をあげたことになる。 悪あがきと分かりきってはいるが、水で湿った指で両耳をつまむ。磁石が当たっていた ところはコリコリと硬く、しこりのようになってしまっていた。 「帰る頃には引くだろうから、安心しな、ね?」 黙り込む自分に何を思ったのか、同じく手を洗いながら普段より優しく話しかけてくる。 「マグピじゃなくて、クリップのにすれば良かったねぇ。ごめん」 「……もう、平気だから」 知らなかったとはいえ、こいつは一応選択肢を用意していた。拒否できたのにそれをし なかった自分にも落ち度はある。 それに、相手が一方的に自分を責めるからといって、自分もそうやって謝らせてて良い 気分にはなれない。 「…その、無駄になった分は払うから、気にするな」 顔を合わせたくはないので、部屋に入る相手の左耳を見ながら言った。軟骨ぎりぎりの 位置までくすんだゴールドの輪が通っているのだが、本当に痛くないのだろうか?自分が 着けていたのと違って、何かに引っかけたら皮膚が裂けてしまいそうで、他人の物ながら ハラハラする。 「馬鹿言うなよ、割り勘ってゴリ押ししたのはどちら様ですか?」 家に着いてからはじめて鼻で笑われる。家主に倣ってカーペットに腰を下ろすと、床に バッグを置きコートをベッドに放った相手が身体を寄せてきた。 「…でも、せっかくユカちゃん嬉しそうだったから、また似たようなの探そうね」 ニヤニヤしながら頬をつつかれ、思わず睨みつけてしまう。初めて身に着けたアクセサ リーに浮わつく心は、自分が気付くより先に見透かされていたようだ。 「あとねぇユカちゃん。せっかく可愛いカッコしてるのに、あんな言葉遣いしちゃダメだ よ~?」 頬から顎へと指を下ろし、着ていたブルゾンを掴まれる。自分がされるがままなのを良 いことに片腕ずつ脱がすと、同じようにベッドの上に放ってしまった。 「こーんなブラ線透け透けで、そんな生意気なこと言っちゃってたら、ナニされるか分か んないっしょ?」 肩を引き寄せられ傾いた自分の上体を、回した腕が受け止める。紺のストライプが透け てしまっているだろうブラジャーにそって、相手の指が背中を撫でてきた。 「………っあ…」 自分よりも器用に動く指が、ブラウスの上から下着のホックを外してしまう。解放感は 一瞬で、浮いたブラジャーに胸板をくすぐられるもどかしさに思わず身震いしてしまった。 「あーゆーいかにもカラダ目当てっぽい奴は、すぐコッチに来ちゃうんだよ~?」 「……っだめ…!」 慌てて離れようとする自分に構わずスカートの中に潜った左手が、ショーツに押し込め たそれを掴みあげる。身に着けた服にそぐわない、「女の子」にはありえないモノ。 「…ユカちゃんみたいな可愛い子が、こんなの持ってるなんて知ったら、どうなっちゃう んだろうね?」 「ぁ…や……やめて…っ…」 まだ萎えたままのそれをやわやわと揉みながら、クスリと笑って相手は続ける。 「今日のデートは、楽しかったですか?ユカちゃん」 鼻先が触れあうほど顔を寄せて、性器への刺激にゆがむ自分の表情を探ってくる。 「た、た………たのしかった…です……」 他に、何と答えろというのだろう? 間近で満面の笑みを向けたかと思うと、相手はさらに身を乗り出してきた。 「…っ?ぁ……」 左側に移動した相手は、両足で自分を挟むようにして抱え込んでくる。左手を差し入れ られたままのスカートは捲れ、ブラジャーと同柄のショーツが見えてしまった。 「だよねえ?だって、お耳痛くってもガマンしてくれちゃうくらいだったものねぇ~?」 言いながら左肩に顎を乗せて、耳に吹き込むようにささやきかける。ピアスによる痛み の名残とそれ以外の刺激に、相手の胸に密着した背筋がゾクリとした。同時に、左手に弄 ばれているそれも。 「あーあー…ぷっくりしちゃって……」 熱をもったそこに吐息がかけられたと思ったら、生温いものが包み込んできた。ちゅる ん、という湿った音。 「ひゃうっ!?」 情けない、高い悲鳴が口をついた。耳朶を舐められて…というか、吸われている。 「っゃ…やめ」 「やめろ」と言うべきか「やめて」と言うべきか。まだ奴のごっこ遊びは続いてるんだ ろうか? 「……あ………っは……」 クチュクチュと、湿った音がやけに近くに聞こえる。当たり前だ、耳を舐められている んだから。 時折耳殻や首筋に息がかかる。相手が息を継ぐ度に、早く早くと思ってしまう自分に戸 惑った。 早く放して欲しいのか、早く…もっとねぶって欲しいのか。 そこまで思って慌てて身をよじる。こんなとこで感じてなんかいない。第一、他人の耳 なんか汚いじゃないか。 こんな変な所を舐めてくるなんて…こいつやっぱりおかしい! しかし抵抗しようにも性器を掴まれたまま抱きしめられているので、もぞもぞとだらし なく身体を揺するだけに留まってしまう。 「……なに?耳たぶチュッチュされただけで腰砕け?」 「っ…ちが……っん!」 舌先で腫れたそこをつつかれながら問われ、反論しようと開いた口に何かをねじ込まれ た。覚えたくもないが、覚えのある感触。 「はぁい、一緒にチュッチュしてね~…そうだよねぇ。俺ばっかじゃあユカちゃん、お口 さみしいもんねえ」 「ぁ……ふ、ぅっ………んんっ」 肩を抱いていた右手の親指が、舌をくすぐるように動く。 違う、そういう意味じゃないと伝えたいが、ショーツの中で硬くなり始めた性器の先を 擦られ言葉にならず、仕方なく相手の指を満足させるべく舐めた。 ここに他人と…そういう意味で触れるのは、たぶん二人目だ。 中学卒業前の下校中に、それまでただの友人だと思っていた女子から突然キスされた。 転勤族の親の都合で三年になってから転入してきた彼女は、小学校から同じクラスの友 人の幼馴染みだったそうで、三人でよく通学した。 女子とあそこまで距離を縮められたのは初めてだったが、友人に似てさばさばした性格 で男っぽい彼女は、自分の薄暗い嫉妬心を刺激しなかったからだろう。 正直、異性にキスされたという初めての経験にではなく、自分の当てが外れたことに驚 いていた。 女子のグループに入れなかったわけでもないのに自分たちに関わってくるから、てっき り幼馴染みの友人を好きなんだと思っていたのに。だって、自分なんかよりずっと親しげ に話していたのに。 ずっと前から彼女が好きなのだと、自分が間に居るおかげで彼女とまた以前のように付 き合えて感謝しているのだと、照れくさそうに話していた友人の顔がよぎり何も言えない でいると、身を離した彼女が口を開いた。 『……ノーリアクションですか?』 『いや、驚いてるよ』 『それ驚いてる反応じゃないから!』 『…ごめん。その、冗談でなければそういう意味でも、ごめん』 何それ、と彼女は笑った。 『あたしがこんなんだから、何とも思わない?』 『そういうわけじゃなくて…気持ちは嬉しいけど』 『…須藤、好きな子居るの?』 好きな相手は居る。それは「女の子」として声を掛けられる自分と…鏡の中に居る、セ ーラー服に身を包んだ自分。 どちらも、相手の想定している答えではない。 『…こういうこと、今は考えられないから』 無難なセリフ。自分にふさわしい模範回答だ。 言った直後に「だったらそれまで保留にして」などと返されないか危ぶんだが、彼女の いらえはやはり彼女らしい、さっぱりとしたものだった。 『……ありがと。じゃあね』 それっきり。卒業後また転勤で引っ越して行った彼女からは連絡はなく、形ばかりの年 賀状も去年は返ってこなかった。 好きな相手と距離を縮め、行動で思いを伝える。ダメだったらあきらめる。彼女は自分 よりよっぽど理性的で、合理的だ。 いくら学業に励んだって、他人に称賛され好意を寄せられたって、自分は変わっていな い。 初めてセーラー服を身に着けた頃、女子に嫉妬を覚えた頃…そして叔母が家を出た頃か ら、可愛がられたい、「女の子」として愛されたいという渇望は変わらず抱き続けている。 そして、それが原因となってこうして恥辱の限りを受けても、相手の言いなりになって いる自分が居る。 あの時は、好きになりたい者同士くっつけば問題ないのにと他人事のように思ったもの だったし、今でもそう思う。 惚れただのくっついただのと耳に入る色恋沙汰といえば、彼女は彼が好きだが彼は別の 彼女が好きだとか、そんな対象の相違ばかりで、誰かに好意を寄せること自体に変わりは ない。 どうして彼女は彼が好き、彼も彼女が好きとはならないんだろう。一生のうち出会える 人の数なんて限られているのに、どうしてこんなに低確率なんだろう。 年寄り臭いと言われそうだし、こんな話題にはなったことはなかったが、つくづくそう 思うのだ。 …だったら、こいつとはどうなんだ? 自分はこんな格好をして「女の子」になるのが好き。こいつは(彼の言うことを十割信 じるとすれば)自分を「女の子」にして、こんな風にもてあそぶのが好き。誰一人、自分 たちすら傷つかない、知られさえしなければ問題のない関係に思えなくもない。 「…っふぁ…あ……」 ヌルリ、自分の口から親指を引き抜くと今度は人差し指と一緒に突っ込んできた。 「ユカちゃんのお口、一生懸命頬張ってて、とっても可愛いですねぇ~」 ……いや、やっぱり違う。 望んでこんなことをしているのなら、その相手に優しくささやかれて怖気が走る人間が どこの世界に居るだろう? 所詮自分たちの根底にあるのは好意ではなく、相手の携帯の中にあるデータ…自分の弱 みで、そのうえでの利害の一致にすぎない。こいつがこの遊びに飽きるまでの、一過性の 関係。それこそごっこ遊びだ。 どうにかしてこいつを丸め込んで、画像を完全に消して関係を絶たないといけない。 ただ近頃は、それを本当に望んでいるのか、自分自身に疑問を抱いてしまう時がある。 金曜の夜に、前回別れる時に指定された服をバッグに詰める時、憂鬱どころか気が高ぶ っている自分が居るのだ。 決して相手に会いたいわけではない。ただ、今週はどんな格好をさせられるのか、どん な責めを受けるのか、どんな……気持ちの良いことを知ってしまうのかを、どこかで期待 している自分に気付いてしまっている。 いけない。このままではいけないと、何度自分に言い聞かせたのだろう?そしてその声 を、自分自身を裏切る背徳感にさえ悦びを覚えてしまう自分に気付いたのも。 こいつと別れられるのが先か、自分がおかしくなってしまうのが先か。 自分の苦悩なんて露ほども知らない相手は、鼻歌なんか歌いながら片手でブラウスのボ タンを外し始めた。 ああ、また…何も、考えられなくなってしまう。 (おしまい) 懊悩彼女Side-M 入学式の前日登校で、教室で頬杖ついて本読んでたのが女子たちの噂の的の「須藤クン」 だった。 もったいない!というのが俺の心の第一声。 日焼けしてないけど不健康に見えない肌も、涼しげだけども睫毛の濃さでぱっちりして 見える目も、すっと通った鼻梁も、形の良い唇の間から覗く白い歯も、このままでも出る とこ出れば全国区のアイドルになれそうな面だが、きっと女で化粧したらもっと映えるの になあなんて詮方ないこと思っちゃうくらい可愛い顔をしていた。 もっとも机の下で組まれた、俺らと同じスラックスに包まれた足が嫌味なくらい長かっ たり、その後の噂や彼自身の振る舞いで中身まで申し分ないイケメン模範生だと知り興味 をなくしてしまっていたが。 端正な見てくれでいきなり女子の評判になってたり、当日ノロでダウンした新入生総代 の代打で素晴らしい答辞をこなしちゃったり、帰宅部のくせに塾にも行ってないのに、中 学の頃から常に学年首席といういけ好かないスペックの彼が誰の攻撃対象にもならなかっ たのは、ひとえにその生真面目さと突っ込みようのない人の好さのためだろう。 女子の黄色い声に眉一つ動かさない奴の態度に陰口たたいていた奴らも、委員会だった り行事だったりで仕事をともにした後には皆口を揃えて「良い奴だ」と言う。 一見無口で無愛想だけれども、話してみれば気も融通も利く、なんとなく悪く言うのが 気が引けるようになってしまうタイプなのだそうだ。 これで奴がことさら明るいとか人付き合いが良かったりすれば敵も作れただろうが、成 績と顔以外には誰に対しても自己主張しない、そして教師だろうと生徒だろうと、女子だ ろうと男子だろうと変わらず接する奴の態度は、見事に聖人君子ってやつだった。 悪い奴ではないけど、住む世界が違うというのが、俺たち同級生男子一同の須藤豊に対 する認識だ。お前本当に高校生かよ!ってな潔癖さは、いまいち下世話な話題を吹っかけ る気にはなれず、結果必要がなければ関わることはなくなっていたのだ。 そんな彼が、彼女とっかえひっかえするわ、バイトや予備校の都合で頻繁にサボりかま すわな、内申には記されない問題生の俺の部屋でブラウスをはだけられ、スカートの中の モノを握られている。 衣装によって華奢なものとなった細身の身体は、俺に後ろから抱え込まれて座り込んだ まま動けなくなっていた。 「…どーしたの、ユカちゃ~ん?」 小ぶりな口に突っ込んだ指を無造作に抜き差しし、すっかりベタベタになった左耳にさ さやきかける。 「…っふぁ、ん、んぅっ……!」 親指の先で上唇を撫で、人差し指の関節をプルプルつるんつるんの下唇に弾ませる。リ ップの上に唾液のグロスを塗りつけられた口を歪めて、須藤は苦しげに喘いだ。 「それじゃあ、分かんないよ」 ちゅぷん、と音をたてて指を引き抜き、相手の顔を覗き込む。熱に浮かされたような黒 瞳は宙をしばらくさまよい、ゆっくりと俺を映した。 「お耳チュッチュされて感じちゃったの?それとも指フェラ?それとも……これ?」 「っぅ………んぁ、や…やめ……」 白地に紺のストライプの入ったショーツ越しに、ペニスの根元をキュッと締めつけてや る。形の良い腿を寄せて必死に首を振るのだが、これでは俺の手を挟んでしまっている。 「ふぅん、これがイイのかなぁ~?…じゃあ、触ってやんない」 竿を掴んでいた左手を離しても、丸見えの縞パンは前面がパツンパツンに押し上げられ たままだ。ヒップハングのウエストは下腹ぎりぎりまで肌を覗かせるが、そこにあるべき 毛はない。 「そうだよねぇ、ユカちゃん女の子なんだから、オチンチンなんか触られても嬉しくない よねえ?」 猫撫で声を吹き込んで、再び相手の左耳を口に含む。硬い耳殻の凹凸を舌先でなぞり、 耳ん中に涎垂らしちゃわないように一度離す。マグピに腫れた薄い耳たぶを、今度は唇で 優しくはんでやった。 「っ!……ひ………ぅ…」 熱をもった柔らかいそこをついばむように何度も咥える。その間に、奴の唾液で濡れそ ぼった右手をブラウスの中、ホックを外され浮いたブラの中へと滑り込ませた。 「上から見ると、ぺったんこ~」 言って耳の真下に息を吹きかける。ひゅ、と細い喉の奥から引きつけような音がした。 ショーツと同じ細い紺のラインはカップに見合った小山を描くのだが、その中身は当然 ながら味気ないほどに平野。脂肪どころか筋肉までうっすら付いてるかな程度なので、ツ ンと勃起した乳首がよく目立つ。 「…もしかして、ブラ擦れて感じちゃったりしてた?」 「ち、ちが…っひぁ、やあっ……ん!」 慌てたようにかぶりを振りかけるが、ぬめる指をコリコリした乳頭に擦りつければそれ すらできずにギュッと目を閉じてしまう。ぱっちりした目元をさらに愛らしく演出してい る長い睫毛は、こないだ押しつけたポーチの中のものを使ってくれたのだということを俺 に告げ口した。 しばらくは俺の部屋に前カノの置いてった道具や姉貴のでメイクさせてたのだが、こい つが使うのはたいして種類が多くないのと、彼女らのお古というのがなんとなく気に食わ ないのでドラッグストアで買い直してきたのだ。 使い心地は悪くないというのを確かめてから準備して、片付けしたら新品が出てきたと いう苦しい言い訳で100均のポーチに入れたそれらを押しつけたのだが、その時の反応と いったらなかった。 きっと今までは通りすがりに、それも気のないふりで眺めるだけだったろう「女の子」 の道具が、自分だけのものとして与えられたのだ。ほんの少し震えながらパッケージの封 を切る自分の手を見つめていた奴は、俺の目の前だというのに自分の頬が上気しているこ とに気付けないまま、新品のパール入りリップをのせた唇で「これで満足かよ」と憎まれ 口をたたいた。 次は一緒に見つくろいに行くかと化粧品の充実してる店を頭の中にリストアップしつつ、 両手でブラジャーの上部をつまむ。相手はといえば、せめて俺と目を合わせないようにか そっぽを向いてしまっていた。そんなことしたって両手で押さえつけたスカートやショー ツの下、少女にあるまじきモノがビンビンになっているのは丸分かりなのに。 「……ぁ………く…ぅんんっ!」 露わになった白い首筋に鼻っ先を押しつけ、すべすべしたそこを舌先で撫で下ろす。肩 をビクつかせて逃げようとする奴の身体を足で挟み込み、唇でくすぐってみたり軽く咬み ついたりしてみた。 「ん……っひ!ぁ…や、やだっ………っやめ……ひゃんっ!」 俺が動く度にかすれた悲鳴をあげ身をよじる。皮膚の薄い所を責められて、もとからく すぐったがりらしい彼にはたまらないようだ。 耳のすぐ下をチロチロ舌先で舐められるのと、首筋を咥えて大きくヌルヌルされるのが 特にお好きなようなので、ご希望にお応えしてやる。 「……っく…んんっ…」 スカートを押さえる手にギュッと力をこめ、グレーのニーソに覆われた腿を擦りあわせ る。投げ出した足は内股になっていて、それこそ「女の子」のようだった。 「……こうされるの、イヤ?」 ベタベタになった首筋から口を離し、腫れた耳たぶに息を吹きかけ尋ねる。その刺激と ブラ紐を弾かれるのとに身を竦めながらも、必死に奴は言葉を紡いだ。 「ひゃ、ぅ……っやだ、やだぁ……っ!」 嫌がられちゃうと余計やりたくなっちゃうタチなのだが、遊びすぎで俺の唇や舌がジン ジンしてきたのでやめにしてやる。「分かりましたよ」と左頬を一舐めしてやれば、ブル リと震えながらも安堵の息をついた。 しかし、 ぷつん…つんっ。 「…っ!?ぁ……?」 胸元で細かく動いた俺の指に、休む間もなく息を詰めてしまう。 柄もカップの形もシンプルなデザインのそれはストラップが付け外しできるタイプなの で、前面のそれを両方とも取ってしまったのだ。ホックはすでにブラウスの上から外して いたから、引っ張ればいとも簡単にブラは脱げてしまう。 「シマシマ可愛いけど、こっちのが良いかなぁ?」 もともと「乳房を包む」という役目を果たせてなかったそれを床に落とし、はだけたブ ラウスを合わせる。上品なパールに金色の縁取りがされた足付ボタンをすべて留めれば、 下着の柄を透かすほど薄い布地は硬くなった乳頭の場所をはっきりと教えてくれた。 「ほら、見える?…ツンってなっちゃってますねぇ~?」 「っみ……見えない!見るな、ぁ…!」 矛盾したセリフを吐きながら暴れる相手を黙らせるため、乾いてきた右手の指をまた口 にねじ入れた。 「ぅんっ!?………っく、ぅ……」 滑らかな頬の内側をくすぐり、放して欲しい一心で舌を絡めてくる相手の腔内を楽しむ。 奴が口をすぼめた時を狙って引き抜けば、ちゅぽんと可愛い音がした。 「こーしたら…分かるかなぁ?」 「…!やめっ………ひぅっ!」 俺の意図に気付き制止しようとしたが、その前に濡れた指を右乳首にぐりぐり押しつけ る。白い布は唾液に透け、左側よりもその色付きを明らかにしてしまった。 「エッチなおっぱいですねぇ~……っとと」 ブラウス越しの愛撫に緊張する腿を、右足の親指で逆撫でしてみたのだが、相手が身を 竦める前にこちらが吊りそうになった。欲張りすぎちゃ駄目か。 「…あのまま俺来なかったら、どうなってたんだろうね?」 「は?………っ!…」 奴的には終わった話を蒸し返され、あからさまに動揺してしまう。 待ち合わせ場所の本屋に俺が着いた時、こいつは見ず知らずのチャラ男(俺に言われて ちゃあ、そいつも気の毒だが)にナンパされて立ち往生していたのだ。フリルブラウスに ピンクのミニスカート姿でファッション誌を手にした美少女が野郎だなんて、まさか今も 夢にも思ってないだろう。 「どっかでイイことしようって言われたの?こんな風に?」 「……っべ…別に……ふく………みるって、ぁ……っ!」 男にゃ興味ないと言い切る優等生が心外そうに返してきたが、こんなナリして喜んでる 時点で、人を馬鹿にできないと思うぞ。 でもまあ、女の子扱いされたいだけのこいつと、きれいな顔をいじめ抜きたいだけの俺 はなかなか良い組み合わせなんじゃないだろうか。 お互い相手の内面にゃ反発しか覚えないけれど、その利害だけは一致している。 「…そっかあ、やっぱりアレかな?……『ほらほら、ココんとこ曲がっちゃってるよぉ~ ?』とか言いながらしけ込むつもりだったんかな?」 両手の親指で乳首を転がし、ブラウスの上から胸板を手のひらで揉みあげる。ない乳を 無理に掴まれて、痛がるどころか彼は力の抜けた手の下、抑えるもののなくなったスカー トの前面をギンギンに押し上げているのを俺にさらしてしまった。 「…あっれぇ?もう触ってないのに…なんでそこ、まだお山んなってるのかなあ…ねぇ、 ユカちゃん?」 「ぁ……っ!あ、ち…ちがっ……!」 わざとらしく尋ねれば、須藤はハッとして慌てて両手で押さえかぶりを振る。 「まさかナンパされたの思い出してコーフンしてる?俺にこーゆー風におっぱい揉まれて 喜んじゃってる?」 「よ…喜んでなんかない!そんな…っ」 「じゃあ、そこを落ち着かせるためにも続けよっかなぁ」 「っぁ………!」 自分で自分の首を絞めたことに優等生はようやく気付いたが、まさか「違います、あな たに乳首いじられて勃起しちゃったんです」なんて言えるわけがない。奴はただ耳元に吹 き込まれる俺の声が、次はどんな難題を吹っ掛けてくるのかを怯えながら待つだけだ。 「今日はユカちゃんを、本物の女の子みたいにイかせてあげる」 「…は…?……ひあっ!?」 右手を下ろし、怪訝そうに振り返りかけた相手のスカートの上から尻を掴む。高い悲鳴 とともにビクリと跳ねた身体を、横向きに倒してやった。プリーツスカートが翻り、ちら りと覗くのは紺の縞パン。なかなか萌える光景だ。 「っう………」 「あ、そこでストップな」 起き上がろうと四つん這いになった状態で止められ、須藤が不安げに見上げてくる。そ の端整な面が時折浮かべるほほ笑みだったり悩ましい表情に女子らは溜め息をついていた が、こんな顔はきっと知らないだろう。 「…何、を……っ!?」 「動いちゃダぁメ…お尻ペンペンしちゃうよ?」 スカートを捲られてパンツ丸見せで、なすすべなく同級生の前にひざまずく「王子様」 なんて、傑作すぎだ。 「いーい格好」 実際、後ろから見た奴の臀部はそれこそ写メってやりたいくらいに素晴らしかった。 ほっそりした白い腿の付け根にふさわしく、薄くはあるがぷりんと上向いた二つの小ぶ りな半球を紺ストライプが強調するように描いている。シンメトリなその曲線は、煽情的 というよりはむしろ芸術的だ……俺は低俗なので興奮しかできないけれど。 ローライズに合わせるようなのヒップハングのショーツでは、こうして前屈みになると 谷間の上部が見えてしまっていた。張りのある尻たぶがほんの少しだけ覗くのがチラリズ ム好きにはたまらない。 そしてそんな美尻の下方…本来ならば何もないはずの股間を不自然に押し上げているの は、その愛らしい顔や華奢な身体に似合わない立派な男性器なのだ。 「……まだおっきしたままなの?はっずかしーい」 わざとらしく指摘すれば恥じ入るように俯いてしまうのだが、盛り上がったそこが萎え る様子はない。こいつはこの屈辱的なポーズに、俺から投げ掛けられる言葉に紛れもなく 興奮していた。 嫌味のないストイックさで、女子の憧憬と男子や教師からの信頼を集めていた須藤。奴 が「女の子」の格好をした自分に勃起する変態だなんて、誰が想像できるだろう? 俺とは対極に居るような優等生が、ショーツに覆われた美尻をさらしてチンコ勃たせて るだなんて、いまだに何かの間違いじゃないのかと思う。 しかし実際に奴が着崩したセーラーやエロ下着で汁こぼしてる姿は、俺の携帯にしっか り収められているし、俺に卑猥な言葉を投げかけられて喜んでるのもこいつ自身の身体だ。 「おっぱい触られてこんなカッコさせられて、それでも嬉しいんだ?…やっぱユカちゃん、 オチンチン擦って欲しい?いつもみたくエッチ汁出したい?」 「そっ……そんな、こと………?」 反射的に首を横に振った須藤が、俺の笑みを見て訝しげな顔をする。 「いらない?じゃあ心置きなく女の子ごっこしようねぇ~」 「っぁ、何……!?ひゃ…や、やめっ……!」 丸見せだったショーツの両脇を掴みを引き下ろせば、生まれてこのかた一度も日焼けし てないような白い双丘が露わになる。つくづくチンコあんのがもったいない尻だ。 細いストライプをくしゃくしゃにしながら膝まで脱がすと、押さえるもののなくなった ペニスが前に回した俺の手を打たんばかりにブルンッと飛び出した。使う予定ないなら短 小包茎に悩んでる男にくれてやれってくらい立派な逸物が、このほっそりした腰にぶら下 がっているのだ。ドッキリなんてもんじゃない。 「…本屋でも、スカートん中こんなにしてた?」 股布の湿ったそれから手を離し、先程のセリフ通り竿には触れないようにぺたんこの下 腹を撫でまわす。背後からのしかかって意地悪くささやかれ、奴の細い肩がブルリと震え た。 「してなっ……ぁ………?」 つるんとした股間に指を滑らせ、袋の後ろで止めると拍子抜けしたような声があがる。 さすが優等生、見えないところの処理も完璧だ。 「…そうだよね。女の子だったらココだよねえ~?」 右手で会陰部をそっと指圧しながら左手でブラウス越しに引き締まった腹を、薄い胸を くすぐる。タックやレースで手のひらがくすぐったいが、乳房があるように布地を揉み乳 頭にかすめてやった。 「ひゃ、あ………どっ、どこ触って……!…」 「どこって、ユカちゃんの………でしょ?」 直接的な答えを返してやると、目の前の耳が真っ赤になってしまった。せっかく耳たぶ が落ち着いてきたみたいだったのに。まあどうでも良いが。 蟻の戸渡りというだけあって、なるほどたしかに狭い。それこそアリさんにでもなった 気分で、俺は右人差し指をそろそろと前後に動かしてみた…つくづく剃毛を命令しといて 良かったと思う。手のひらに当たるナニがチクチクしたら、かなり萎えそうだ。 「どう?アソコ触られてるご感想は?」 「っぁ、あ……?…やだ、だめ、だめ………!」 いやいやと首を振るが構わず刺激し続ける。さっき座ってた時みたく俺の胸に密着した 狭い背は、おそらく初めてだろう奇妙な感覚に小刻みに震えていた。 うんうん、いつだったか俺もおねーさまからフェラついでにベロベロ舐められた時は「 らめぇ」的なセリフ口走った気がするから、お前のがずっと堪え性あるんだろな。言わな いけど。 萎えちゃわないよう、左手で硬くなった乳首をつまんだり転がしたりしながらしばらく 丁寧になぞってみると、徐々に相手の声が切羽詰まったものになってきた。 「っは………ん、んっ……やめ、そこ…も、もうやめてっ…」 「うん?なんで?どうして?」 「…っな…なんか、なんかおかしい…っ!」 「なんか」も何も、ダラダラ進行形で垂れ流してる我慢汁が睾丸伝って俺の手に来ちゃ ってるんだが。 しかし俺は何食わぬ顔して聞き返してやる。 「おかしいって、ドコが?……気持ち良くって変になっちゃいそう?」 「あ、あ………ん、だめぇ……へ、へん、に…っ!?」 「なっちゃう」と唇を動かすのだが音にはならない。カチカチになったペニスの根元を 俺の指が押さえつけたからだ。 「……っ!…ん………っく…」 最後まで回答できないまま荒く浅い息をつき、優等生は必死にかぶりを振る。両腕はも はや肘まで床に付けてしまっていて、俺に抗う余裕なんてないみたいだ。 「指マンで感じちゃってる?気持ち良い?」 「ちがっ…ぁ……ゆ…ゆび……っ、や、やめてぇ………っ」 またも矛盾しまくったセリフを吐かれてしまう。 こんな、ブラウスの上からもはっきり分かるくらいコリコリの乳首にしといて、俺が「 そっか、感じないんだ」と思うとでも言うのだろうか?俺の指が動く度にプリプリの上向 きヒップはもどかしげに揺れて、ジーパンの中に押し込めた息子をギュウギュウ苛んでく れていた。なんつーか、こいつ放り出してトイレに駆け込みたいのを堪える俺って超素敵。 「嘘つき。ユカちゃん今あそこ触られて、おっぱいクリクリされてんだよ?……エッチで モロ感のユカちゃんが感じないわけないっしょ」 わざと羞恥を煽るような言葉でスパートをかけてやれば、さりさりとカーペットを擦る 奴の爪がかすかな音をたてた。 「……っひぁうっ!?」 不意にビクンッとしなやかな背が反り、サラサラの黒髪が俺の顎をかすめる。もうちょ っとこいつの身体が柔らかかったら、とんでもない反撃くらうとこだった。 「ひ…あ……っいぁああっ!あっ、あ…!」 黙って刺激を与え続けてやれば、何も考えられなくなったように悲鳴をこぼす須藤。普 通のオナニーより百倍気持ち良いとは聞くけれど、まさかお堅い優等生がこんなエロ声あ げちゃうくらいとはね。つくづく一軒家なのと家族が外出中なことに感謝する。 珍しく悲鳴をあげてイったら身体を支えることもできなくなったのか、くたりと床に伏 せてしまった相手から身を離す。むき出しの尻を突き出したままヒクヒクと震える身体は、 まだ絶頂の名残に酔っているか、あるいは真っ最中なんだろう。 そんな「女の子」としてははしたない、男としては情けないことこの上ない格好を俺に さらしたままだというのに、その白く滑らかな頬を伝う涙は透明で、焦点のぶれた黒瞳も どこまでも清らかだ。顔だけ見れば、「荒廃した世界に嘆く天使か聖女」みたいなタイト ルが似合いそうな感じ。 しばらくそのおきれいな顔を覗き込んでやると、ようやく落ち着いたのか俺の顔を捕ら えた双眸がハッと見開かれた。四つん這いになった状態から身を起こし、丸出しだった桃 尻を捲れ上がっていたスカートの裾であたふたと隠すさまは、たった今俺に股まさぐられ てイきまくっていた変態とはとても思えない。 膝で丸まったショーツを俺の目の前でどう穿き直せるか、ちらちら俺を気にしつつ考え ている風の相手を前に、つくづく良い拾い物をしたと思う。 いつものようにセックスしたらもうただの淫乱女になった彼女と喧嘩別れした日、何気 なく寄ったあのスーパーの中で見かけたセーラーに包まれた後ろ姿が、なぜだか心に引っ かかったのだ。そしてそれは「まさか」になり、「やっぱり」を経て今に至る。 こいつとセックスする気は毛頭ないが、きれいな顔が羞恥に歪むのを、嫌がりながらも 与えられる快楽に欲情してしまうのを楽しみたいという俺の困った性欲を満たすのに、こ いつは申し分ない嗜好をしていた。 自身の姿に欲情する倒錯した女装趣味と、恐怖の裏返しの被虐願望。 誰にも明かすわけにはいかない悩みは、俺との出会いで解消するどころか、今日みたい な「おんなのこごっこ」を繰り返すことで、どんどん深みにはまってしまうわけだ。 「…イっちゃってたねぇ、ユカちゃん」 ニヤニヤしながら尋ねれば、答えられずそっぽを向いてしまう。それが何よりの証拠だ っての。 「そんな立派なオチンチンあるのに、お股触られただけで?………っと」 再び足の間に座らせて、ぺたらっこい胸に両手を回して抱きしめる。 苛んでは甘やかし、優しくしては突き放す俺の態度に混乱しつつも、決して逆らわない し媚びたりもしない。自分の弱みを握る俺を恐れてはいるけれど、奴の気高い精神はそれ を認めたくはないんだろう。 いわゆる「カラダは許しても心だけは」ってやつ?すっげ好みドンピシャでかえって逆 効果なんだけど、腕の中で居心地悪そうにもぞもぞしてる相手は気付いていない。 「…セーエキ出さないでイっちゃうなんて、ユカちゃん本当の女の子みたい」 恥じ入るように俯くこいつの分厚い辞書には、ドライオーガズムなんて言葉はないのだ ろう。「ヘンタイ」とささやくと怯えたように身震いしたが…プリーツの乱れたスカート の前面は再び傾斜をつけはじめていた。 「さっきイったばかりなのにねぇ……やっぱりユカちゃんみたいなエッチな子は、お股コ チョコチョってされただけじゃ足りないのかな?」 「あ……っだ、だめ…!」 裏地がないから、焦らすように裾を持ち上げていくとザラザラ亀頭を擦るんだろう。さ れるがままだった奴の手が俺の腕を弱々しく掴んできた。 「……コレでイきたい?ドピュッて、出したい?」 ピンクのスカートにそぐわない勃起ペニスの付け根をなぞり、息を呑む相手に尋ねてみ る。 「……っ……ぅ………」 腫れの引きかけた耳たぶの下、薄い皮膚を尖らせた舌先でつついてやる。かぶりを振り かけた優等生の、つまらないプライドを取っ払ってやる。 「ぁ…だ……だした、い……っ!」 鈴口から、そしておそらくその目からも涙をこぼしながら、須藤はついに自分からおね だりをしてみせた。 「ふぅん」 またこうやって後悔の種を、俺に逆らえない理由を作ってしまう。こいつのおきれいな 顔が屈辱に歪むのを想像しただけで、腹の底が熱くなるような、そんな奇妙な昂揚を覚え た。 残念ながら、俺の息子はもうしばらく窮屈な思いを味わうことになりそうだ。 「…よく言えました」 俺の腕を掴む指が離れたので、ピンクのスカートを押しのけ起き上がったそれを改めて 握り込んだ。 (おしまい) 懊悩彼女おまけ 投げ出した長い足の先っぽが遠いのに少し嫉妬を覚えるが、今のところ用があるのはそ の付け根だ。 めくれたスカートの下で俺に掴まれたままの、今は萎えているペニスは自身が垂れ流し た我慢汁と精液でドロドロんなっている。この体勢になる前からフルおっき状態だったの で、すらりとした腿までそれは流れてしまっていた。 くてんと脱力した身体が倒れないよう支えてやりながら、床に転がしといたティッシュ ケースに手を伸ばす。「雑然としている」と家族に酷評される部屋だが、こうして必要な 物がすぐ使えるなら十分機能的だと思う。 数枚引き出し、膝に引っかかった下着に吸い込まれる前に精液を拭う。そのまま形の良 い足の付け根にティッシュを滑らせると、我に返ったのか腕の中に居る相手が身じろぎし た。 「…あ……ん、待っ……」 「こぼれるから、ちょっとじっとしてろ」 「う………」 人ん家を汚すわけにもいかず、大人しくなる須藤。それでも大股開いて俺にいじられて るのは恥ずかしいようで、頬を染め両目をギュッと閉じてしまった。 「………は……はやくしろ、よ……」 「そしたらノーパンで帰んないといけなくなっちゃうねえ~」 相手を黙らせながらぐちゃぐちゃになったペニスや袋を拭いてやり、やっぱり床に転が してたウェットティッシュ容器を取る。べとつく陰部を丁寧に清めてやりながら、つくづ く俺ってマメだと思った。 一方的に気持ち良くさせてやった相手の後始末をするなんて、どう考えても時間外労働 やサービス残業だが、礼状のあるなしで採用を決める会社があるように、こういうののあ るなしで次会った時にスムーズにプレイに移行できる。女だったら風呂場連れてって、本 番行かない程度に身体を洗ってやってるだろう。 それなのに…それなのにだ。付き合う女はただのヤリマンになる上に、なぜだか別れ際 は俺がとことん悪いことになるのだ。ありえない。むしろ俺のが「騙された」と叫びたい のに。 別れる時だって「じゃあ別れようよ!」と言われて「うん。それじゃあ」と返しただけ なのに、言った張本人が「何それマジわけ分かんないし!」と逆ギレ。こっちがさっぱり ワケ分かんねーっての。 新しいウェットティッシュで手をよく拭ってから、くしゅくしゅんなってたショーツを するんするんした太股に滑らせ引き上げてやる。やらしい意味じゃなく尻を押して腰を浮 かせるのを手伝い、元どおり穿かせてスカートを下ろした。もどかしげに膝を擦り合わせ ているうちにずり落ちたニーソックスまでは、俺が直さなくて良いだろう。 また新しくウエットティッシュを引き抜き、唾液でベトベトにしてしまった相手の耳か ら首筋、頬を丁寧に拭いてやる。「自分で」とかつまらないこと言いかけたので、うっす ら汗ばんだうなじに息を吹きかけてやった …よし、俺の役目は終わった。あとは奴の帰宅予定時刻に合わせてシャワーを貸すか、 このまま足元に転がったブラを着けさせて帰すかだ。 「はいっ、お待たせしました~」 「あ……ありがと………!」 肩を叩いて離れれば、俺の甲斐甲斐しいアフターケアに思わず呟きかけた須藤が慌てて 首を横に振る。 「どーういたしまして」 「ち、ちがっ…今のは単に……っふ、拭いてくれたから…いやでもそもそもお前がこんな ことしなきゃ、」 「はいはい、乳首透け透けだよ~」 なんかもういっぱいいっぱいみたいなので、拾いあげたブラを渡してやった。不本意そ うに顔を赤らめつつも少しほっとしたように下着を受け取る優等生を見て、つくづく感じ たことは、 「……納得いかねー」 「は?」 「いや、こんなに優しくってナニもデカい俺を、どうして女子は分かってくれないのかね えと」 正確には一年の夏までに先輩や隣のクラスの女の子数人とくっついて別れてから、だけ ど。 俺の素朴な疑問に対して、女子から「女の敵!」な目で睨まれたことなんてないだろう イケメン「須藤クン」はといえば、 「…………」 「優しい男なら弱みを握ってこんな変態行為を強いたりしないだろ」とか「ナニって何 のこと?」とか色々言いたげに唇を動かし…口を閉ざしてしまった。眉根を寄せてるとこ をみると前者は藪蛇なことに、頬がにわかに上気したとこをみると後者の指すところに気 付いたんだろう。合宿の入浴時間こいつをはじめとする班長とか委員だけは打ち合わせか 何かで、男子浴場でのアホ格付大会に参加していない。 薄い布地に透けた乳頭を隠すように、ブラを持ったまま寄せられた白い手を見ながら考 えてると、返事を期待してなかった相手から遠慮がちに声をかけられた。 「……怒るかもしれないけど」 「まっさか。こんなに優しい男は居ないっての…さぁ、忌憚ないご意見をどうぞ」 大袈裟に胸の前に手を当てて、普段ならこんなお近付きになれないような女装優等生の お言葉を賜る。 「…そういうところが、悪いんだと思う……」 俺は黙って手を伸ばし、穿かせたショーツをもう一度引きずり下ろした。 (おしまい)
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彼氏と彼女 揺れる電車の中、手を握りあって 座ってる彼氏と彼女。 隣で眠る彼氏の顔を、 覗いて少し笑ってる彼女。 包み込む様に彼女の手を 優しく握る彼氏の手が あたたかい 目が覚めて少しキョロキョロして、隣にいる彼女見る彼氏。 声出さずに「おはよう」と彼女。 自然と微笑みあう2人 一瞬ギュッと彼女の手を 強く握る彼氏の手が あたたかい 大きな声で喋れないから、頭近づけ、おしゃべり2人。 少し目を上げ「ついたよ」言って、 席を立つ彼氏と彼女。 人混みの中彼女の手を かたく握る彼氏の手が あたたかい あたたかい あたたかい・・・ (2003年5月頃制作)
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94 名前: 774RR [sage] 投稿日: 2007/10/29(月) 23 44 38 ID c7qEaDRs 高校3年間+大学一年間付き合った彼女と別れた。 彼女はずっと夢見てきた海外に留学することを決めた。 別れた原因はもう会えないから・・・との事。 別れの朝、愛車のビラーゴで、彼女と日の出を見にいった。本当に綺麗だった。 「もう二人で見れないね」 彼女が泣いた。俺も泣いた。 ビラーゴのクロームメッキが、光り輝いていた。 あれから3年経ち、就職先もほぼ決まったようなものだ。 ふと朝日が見たくなり、俺はあの思い出の場所へと走らせた。 ふらふらになりながらも着いて、ふと看板の裏側に目が留まった。 ○月×日:□□が好きだよ ○月×日:□□ー!! ○月×日:□□ごめんね、私が馬鹿だったんだ。 彼女は毎年帰省していて、この山に来ていた。 俺は時間を改め彼女の実家に電話をかけた。 お母さんが出て、名前を言ったら、「あら、久しぶりねー。元気だった?」 軽く世間話をした後、俺は彼女はどうしてますか?と尋ねた。 ・・・愕然とした。 彼女は半年前に交通事故で亡くなっていた。 この朝日を見にきた帰り道、トラックと衝突して。 俺は彼女の実家を訪ね、線香をあげた。 ふと胸の奥で留めていた想いが溢れ出た。 泣いた。彼女と、彼女の母親の前で泣いた。 俺もずっと好きだったんだ。 でも会えないんだから、と自分に嘘をつき続けた。 彼女が乗っていたのは、俺と同じビラーゴS。知らない間に免許も取って買ってたんだな。 これで俺とツーリングできるね、なんて話をしていたそうな。 でも、もう会わないと言ったのは私だし、と帰省してる間も連絡をとろうとしなかったらしい。 お母さんが、彼女がつけていたというお守りをくれた。 それは俺が別れの日、彼女にあげたものだった。 後日、俺はまたあの朝日を見に行った。 クロームメッキが眩しいくらに輝いていた。
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監視彼女対面式 (「偽装彼女」シリーズ・短編) ジャージを脱ぎながらクローゼットを開け、自分の服と奴に着せる上着を見つくろう。 扉に付いた鏡には、セーターを魅力的に押し上げるUFO(未確認ふくよか物体)に落 ち着きをなくしているイケメン優等生の姿がバッチリ映っていた。 「…あの、外寒いから別に今日出かけなくても……良いんじゃない、かな?」 なんとか理由を付けて外してもらおうと必死な奴には悪いが、擬似乳房に胸板こねくり まわされて上気した肌を冷ますなんて、そんなもったいないことを受け入れる気はない。 無意識だろうがそんな可愛く小首傾げてくれたって、俺はお前と違っておねだりされる より泣かす方が大好きな筋金入りのSなので無駄だ。 「何言ってるのーユカちゃん。せっかくそんな可愛い…」 そこまで言ったところで肝心なことを忘れていたのに気付き、俺は半脱ぎ半着かけの状 態で慌てて廊下に出た。 「いいか?すぐ戻るから脱ぐなよ逃げるなよ?」 「…この格好で逃げられるかよ……」 念を押す俺に対し、恥ずかしそうに自分の胸に視線を落とす須藤。さぞかし見通しが悪 いことだろう。 狭い我が家を往復し、姉貴の部屋から長辺三十センチくらいのスタンドミラーを失敬す る。バレたら半殺しとまではいかなくても殴られるので、あとで指紋をきちんと拭かなけ れば。 「ほらユカちゃんおまたせ!」 「……何持ってきてんだよ」 「鏡!」 「見れば分かる」 じゃあ聞くなよと返したいが、目の前にいるのは同級生の須藤豊ではなく恥ずかしがり 屋さんの「女の子」なのだ。 「せっかくそんな可愛いカッコしたんだから自分で見たかったんだよね!気付かなくって ごっめん!」 「何を馬鹿なことを…」 テンション落とされてしまう前に、俺は奴の前に膝をつき、姿見を構えた。 「ささっユカどの、この角度だとなかなかの迫力でありますぞ!」 「む…ムッ○に謝れっ!」 俺的には軍曹さんのつもりだったんだが、こいつの幼少時代はポン○ッキみたいだ。 まあともかくも、彼は俺の掲げる鏡を見下ろしてくれた。 「………っ!」 奴の前にひざまずいた俺は、巨乳優等生の美しいお顔の変化をつぶさに拝むことができ る。 つまり、「はうっ!?」となって、「これ自分!?ねえ自分!?」となって、ビクつい た拍子に震える乳房を「うわぁ……」と凝視しちゃう過程を。 お目々ぱっちり唇プリプリほっぺたつるりんっな美少女は、自分の胸にすっかり見入っ ちゃっていた。 サキさんの巨乳を大注目してた時も思ったが、免疫ないだけなのかやっぱり野郎だから なのか知らないけど、この反応の仕方はかなり面白い。 「……お気に召しましたか?」 鏡の中の自分の姿は気に入ったかと、暗に揶揄されたことで彼は我に返った。 「っ……で、出かけるんじゃなかったのか!?」 「あれ?さっきあんまし乗り気じゃなかったよね?」 俺のセリフと、誤魔化すように怒鳴った拍子にたぷん、と揺れた乳房に唇を噛む。 「そ…そういうわけでは…」 「じゃあぜひとも、ご自分で見た感想でも聞こうかなあ?」 「…………」 UFO(未確認以下略)による胸責めに耐えるか、他ならぬ自身の美乳を見せつけプレ イさせられるか。 「…出かけたい?も少し居たい?」 「………出かけたい、です」 そういうことになった。 (そしてカラオケボックスへ)
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――気がつくと、マリベルは不思議な場所にいた。 大地も天空もない、延々と続く白一色の世界。 そして。 『全く、何をやっておるのじゃ』 死んだはずの人間が、目の前に立っていた。 「グレーテ……」 呆然とするマリベルに、彼女――グレーテ姫は、矢継ぎ早に言葉を浴びせた。 『そなた、それでも我がマーディラスを救った英雄の一人か? 我が盟友が今のそなたの姿を見たら、何と思うであろうな』 「あんたに言われたくないわ。それに、参加してないあいつは関係ないでしょ!」 フィッシュベルの幼なじみの姿を思い浮かべ、マリベルは顔を真っ赤にして叫ぶ。 だが、グレーテは彼女の言葉を無視するように、言葉を続けた。 『だが、そなたしか頼める者はおらぬと来ている。 歯がゆいが、そなたの記憶と知識に頼るしか……じゃ……』 その声が、聞き取れないぐらいにかすれていく。 『かつて我…国を………うに、……友を…ってくれ…――』 グレーテの姿が、幻のように薄れていく。 「待って、待ってよ!」 マリベルは彼女に駆け寄った。 だが、その手がグレーテに触れる前に、彼女の姿は虚空に溶けて、消えていた。 ――……回復呪文はかけましたけど、大丈夫でしょうか? ――思いっきり、頭打ってたからなぁ。ま、息はしてるし、平気だろ。 近くで、誰かの声が聞こえる。 マリベルがゆっくり目を開けると、そこには二人の男が座っていた。 頼りなさげなヒマワリ頭の少年と、年齢不詳の長髪の男性…… 風景もマランダとは一変し、どこかの洞窟といった趣だ。 「おう、気がついたな」 長髪の男が、マリベルに微笑を向けた。その顔から、敵意は感じられない。 だが、彼らがセーラのような人間ではないという保証もない。 「ここはどこ? あんた達は誰?」 もしものために、気付かれないようにいかづちの杖を引き寄せながら聞いた。 「オレはラグナ、んでこっちはアーサー。 ここは『ロンダルキアへの洞窟』って言うらしい。良くは知らねーけど。 で、あんたはあそこらへんから落っこちて、今の今まで気を失ってた、と」 ラグナ、と名乗った長髪男は、天井の一角を指した。 「ロンダルキア?」 「ハーゴン率いる、邪教の総本山……雪と魔物が支配する、人外の地です。 まさか、またこの場所に来るハメになるなんて…… どうせなら、稲妻の剣も元通り置いておいてくれれば良かったのに」 ヒマワリ頭、もといアーサーがため息をつく。 口ぶりからするに、この場所にかなり詳しいようだが。 「ふーん……って、そういえばハーゴンって人、参加者にいなかったっけ?」 「ああ、いたな。そーいや」 「……え゛?」 アーサーはマヌケな声を上げた。 1番早い時期に出発していた彼は、今までハーゴンの存在に気付いていなかったのだ。 唖然とするアーサーに、ラグナはふくろから1冊の本を取り出し、見せた。 「ほら、ここにも乗ってるぜ」 『参加者リスト』と題された本―― そこには、各々の名前と顔写真・支給武器・簡単な経歴が記されていた。 「ホントだ……」 忘れもしない、大神官・ハーゴン。その写真を、アーサーは複雑な表情で睨みつける。 そんな彼の手元から本をひったくり、マリベルはページをめくった。 (いた!) 「エドガー・ロニ・フィガロ……この人が、どうかしたのか?」 後ろから覗きこんだラグナが、怪訝な表情でマリベルを見る。 (この二人は信用しても良さそうだけど……どうしよう) 少しだけ考え込んだ後、彼女はふくろからメモを取り出した。 そこにさらさらと文字を書き加え、二人に手渡す。 「………!!」 二人は驚きを隠しきれないまま、メモと彼女を何度も見返した。 彼女が書き加えたのは、たった1行。 "首輪を解く手掛かりは、もう掴んでる。" さっきの光景が、夢か幻かはたまた現実なのか……なんて、どうでもいい。 グレーテの言葉が、あの呪文を思い出させてくれた。それだけで十分。 (マジャスティス。……あの呪文さえあれば、脱出も不可能じゃないはず) 「私と手を組まない? 一緒に、この下らないゲームを抜けてやりましょうよ」 強い意思を湛えた瞳を向け、マリベルは手を差し出す。 二人はゆっくりと頷き、彼女の手を取った。 【マリベル 所持品:エルフィンボウ いかづちの杖 エドガーのメモ 基本行動方針:非好戦的、自衛はする 最終行動方針:首輪を外してゲームを抜ける】 【アーサー 所持品:ひのきの棒 最終行動方針:首輪を外してゲームを抜ける】 【ラグナ 所持品:参加者リスト 第一行動方針:マリベルが目を覚ますのを待つ 第二行動方針:スコールの捜索 最終行動方針:首輪を外してゲームを抜ける】 【現在位置:ロンダルキアへの洞窟6階、無限回廊手前】 ←PREV INDEX NEXT→ ←PREV ラグナ NEXT→ ←PREV アーサー NEXT→ ←PREV マリベル NEXT→
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最近、コロカントには、バラッドの様子が以前よりすこし変わってきたように思えるときがある。 それはたしかにここ、とは言えない些細な瞬間だったりするのだけれど、前よりも雰囲気がやわらかくなったというか、周囲に張り巡らせたこわばりがわずかにほぐれたというか、側にいる彼女だからこそ気付いたといえる、ほんのすこしの変化だ。 「もらったんです。食いますか」 きれいな小石を見つけた子供のような顔で、にこにこしながらバラッドが言った。仕事先から両腕にかかえきれないほど、大ぶりの桃を持って戻ったのだ。 大人の握りこぶしよりまだ大きい。まあ、と心底驚いて、コロカントは目を見張る。拭きあげていた皿の手が止まっていた。 「とても立派ですね。……これ、こんな大きいの、本当に桃なんですか」 大陸が違えば植生も変わる。桃に似たなにか別の果物なのじゃないかと彼女は目を疑った。 「桃ですよ。ほら、今日、お祝いごとだって言ったでしょう。ものすごーく儲かってる商家さんの結婚式でね。もう、お祝いのテーブルに、見たこともないようなごちそう山盛りいっぱいあるの。いやあ、金って本当にあるところにはあるものですねぇ。感心しました。どうせ食いきれないから持って帰っていい、って太っ腹なこと言われたんで、それじゃ遠慮なく、って。これだけもらったって、まだまだ、たくさんあったんですよう。手提げでも持って行けばよかった」 お手当もはずんでもらえたんですよ、嬉しいなあ。 バラッドは歌うたいだ。今日は羽振りのいい家の祝いごとに呼ばれていると彼が仕事に向かう前に言っていた。おそらく、二次、三次会まで付き合ってにぎやかに楽器をかき鳴らしてくるから、遅くなるとも。 すでに日をまたいでいる。今日に限らず、帰りが遅くなる時々は酒場の上で休むこともあった。もともと、バラッドが転がり込んで居候していた、あの二階の部屋だ。 鼻歌まじり、上機嫌でひとつふたつ、カウンターの向こうで片づけの最後の仕上げに雑巾を洗って絞る、店主にも、バラッドは桃を抛(ほう)った。 「おい、桃を投げるな」 しかめ面になりながら、それでもなんなく受け取って、それから絞った雑巾をカウンター下に広げて干すと、 「お前さんたち、今日は泊りだろう」 鍵を差し出しながら主人はたしかめる。 「ええ、もう遅いですし……、木戸も閉まってますから」 主人の言葉を受けて、バラッドが頷く。 ここ、イツハァクの町は広い。町ひとつの単位で治安を守ることは困難だ。だったから、区画ごとに木戸があり、深更を過ぎると移動の制限があった。 制限と言っても、通行許可証をもっていればもちろん、有事ではないので、その規制はゆるい。不寝番が顔なじみなら挨拶ひとつで簡単に通してもらえるし、実際、バラッドは今日そうして結婚式の合った区画からこの店に戻ってきている。 ほとんど形だけ残っているものだ。 だが、形式上のものでも、町の外へ出るとなるとコロカントとふたりでいくつかの木戸を通ることになるし、そのたびに不寝番をたずね、木戸の掛け金を開け、とわりと立ち止まることも多い。時間もかかる。泊まってしまった方が面倒は少ない。 「壁中に住めば、楽だと思うんだが」 「あすこが愛の巣なんですよぅ」 「……余計なお世話だったな」 祝い酒を勧められるまま飲んできたのだろう。うふふ、と臆面(おくめん)もなくのろけるバラッドに、肩をひとつすくめて店主の男は返し、 「先に上がるぞ」 「おやすみなさい」 首をごきごきと回し、前掛けの紐をほどくと椅子の背にかけ、おつかれさんと最後に言い残して、店から出て行った。 それを見るともなしにふたりで見送って、それからバラッドへ目を戻すと、目が合った彼がまたにっこりする。 なんだかとても楽しそうだった。つられてコロカントも笑いかえすと、姫、桃好きでしょう、とカウンター席に腰かけた男が、残りの桃をひとつひとつ丁寧に卓上に並べて言った。 「これ見てから、もう頭の中、どうやってもらって持って帰ろうかってそれっばかりになって。献上用とでもいうんですか。御用達っていうか。……こんなの、探したって市場じゃあ売ってないですし、この大きさは絶対、話じゃなくて持って帰って見せてあげたいなあって」 自分が食べたかったというよりは、コロカントに食べさせたかったらしい。 そうして皿を片付け終わった彼女を横に招き、招かれるままに隣に座ると、赤い頭の上にかぶっていた花冠をはい、と差し出して見せる。 白とうす黄緑の花で作られた冠だ。 「花嫁さんから」 「……わたしに?」 もう一度目を丸くしていると、花冠はバラッドの手から彼女の頭へとおさまった。そうして、 「うん、やっぱいい」 ひとりで悦に入っている。これも戦利品だったらしい。 「これは……、」 「これですね、二次会でどんちゃんしてるときに、花嫁さんとすこし話したんですよ。若い花嫁さんでね。年を聞いたら、十七だって言うじゃないですか。……それで、自分にも若くて可愛い嫁さんいるんだあって自慢したら、幸せのおすそわけねって」 もらいました。 得意そうな顔だ。片頬杖をついてコロカントを見る目がやさしく蕩けている。 「絶対似合うと思ったんですよ。……考えてみれば、姫と一緒になったって言っても同じ家に住むようになっただけで、贈り物ひとつしたわけじゃあないでしょう。毎日せっせと町へ通って、お互いの職場に出て。……それはそれで平々凡々な、穏やかでいい毎日かもしれないですけど、……でも、なにかお祝いしてもいいのかなって」 「お祝いですか」 「そうそう。二、三日休みとってね。お泊りで出かけるとか」 「どこかに……、」 「ああ、遠出するって言ってるわけじゃないんですよ。考えてみりゃ、この町だってたいそう広いわりに、出入りする場所は限られてて、行ったことのない区画も多いでしょう。そういうところにふたりでお出かけとかね。探検みたいでしょう。どうです、」 「――いいですね」 聞いているだけでコロカントの方までわくわくしてくる。なにしろ男が楽しそうだ。 同意すると、じゃあああしてこうして、だとか彼がぶつぶつ呟いている。 「バラッド、?」 「いや、いろいろ下調べして……、旅行プランっていうんですか。自分企画してもいいですか」 「ええ、はい、」 どこか行きたいところが決まっていそうだ。もしかすると、今日の宴席でなにか聞きこんできたのかもしれない。 さっぱり見当もつかないが、彼女に異論はない。バラッドに任せることにした。 それからあらためてカウンターに向き直り、桃の芳香に魅入られるようにひとつ手に取る。鼻を寄せてにおいを嗅ぐ。濃密な香りが胸いっぱいに広がって、ほうと勝手にため息が漏れた。 「いいにおいでしょう」 「食べるのも好きですけど、……わたし、このにおいがとても好き。甘くて、幸せなにおい」 そう言ってしばらく鼻をくっつけ、存分にすうすうと深呼吸していると、桃まけしないでくださいね、と隣から心配そうな声があがる。 「桃まけ」 聞いたことのない言葉に、コロカントは首をかしげた。食べすぎて、口のまわりが痛くなったとか、そういうことだろうか。 目を向けると、男はちょっと肩をすくめて言った。 「むかしね、なったんですよ、桃まけ。……まけって言うのかどうかは知りませんけど……、……自分ね、桃って言うのをだいぶ大きくなるまで食ったことがなかったんです。もちろんあるってことは知ってましたけど、自分の稼ぎじゃ高嶺の花でね。貧しかったですねぇ。森になってる野生のものもありますが、あれと、店先で売られているものじゃあ、もうまるきり、別の代物でしょう。でね、お客と同伴……じゃなくて、ええと、……得意先のお客と、一緒にごはん食べにいったときにですね、はじめて、桃ってものを買ってもらって」 なんていいにおいがするんだろう。 赤毛の少年は心底感動したそうだ。 「やわらかで、白くて薄い毛がぽやぽやたくさん生えててね。まるで赤ん坊の肌みたいだなあって。……肌みたいだなあって思って、食べるのがもったいなくて、その日、寝るまでずっと頬ずりしてたら、ほっぺたがかぶれました」 ここ、とおのれの頬を指さして、バラッドがあほです、と笑う。どれだけ頬ずりしたのだろう。つられてコロカントもちょっと笑った。 「……でも、あのときの桃よりもずっと、姫はやわらかなんだよなあ」 うっとりとした調子で、頬杖をついたまま男は彼女に手を伸ばした。すりすり指の背で撫ぜられたので、頬ずりしますか。ためしにコロカントは言った。 「え、」 「かぶれるかどうか」 「ふふ」 こっちの方がいいです。 言ってバラッドは彼女の顎を持ちあげ、つと引き寄せると、ちゅ、と軽く触れるだけの口づけをする。 「いいにおいがして、甘い」 そんなことも言っている。 もう、と半ばあきれて見せながら、コロカントは形だけ怒ってみせた。 「まだお店閉めてないでしょう」 店の常連はこの時間にはもう来ない。とっくに寝入っている時間だ。 けれど、たとえば主人がなにかを思い出して店に戻って来るとか、客がひょっと気を起こしてやって来る可能性もゼロではないと思った。 「見せつけちゃいましょう」 「なに言ってるんです。わたしはいやですよ」 ほろ酔い気分でそんなことを言っているので、コロカントは彼に背を向けてもう一度桃の香りを吸い込んだ。 「やあ、期待されちゃあ、戸口閉めないわけにいかないなあ。……あ、姫は桃食っててくださいね」 お前なに言ってんだ。 ここにもし腐れ縁のグシュナサフがいたら、ものすごく厭な顔をしてそう言っただろう。 うきうきと浮かれた足取りで施錠しにいったバラッドの背中を見送りながら、 「でも、こんなに大きいのに、食べてしまうのがもったいないです」 両掌で玉をつつみながら彼女は言った。 「ずっと飾っておきたいくらい」 「もったいないけど、食わないと、どんどん味が抜けちゃいますからねぇ……、……」 店じまいしはじめたバラッドを見ながら、いったいどうしたものかとコロカントはあらためて手の中の桃を見た。 ずっとの立ち仕事を終えて、いくらか喉はかわいている。うまそうだった。ナイフでひと口大に切り分けて食べようか。でもきっと果汁が流れてしまって、それももったいない気もする。 すこし行儀は悪いかもしれないけれど、見ているのはバラッドひとりだ。かぶりついてしまうことにした。 薄皮をつまむと、熟れたそれはする、と果肉から難なくはがれてしまう。 するするとまず半分をむいて、それから果肉をつぶさないよう、むいた半分をそっと押さえながら残りに取りかかった。 引き寄せた木皿に置いて、汁でうっかりすべらないよう、慎重にむいていくと、あっという間に透明色の赤橙の皮はむけ切り、じゅんとした水気たっぷりの香りがいっそう立ちのぼる。 いただきます、とちいさく彼女は呟いて、誰も見ていないのを幸い、あーんと口を開けると、大玉のそれにかぶりついた。 たちまち鼻の奥まで桃の甘ったるくてさわやかなにおいでいっぱいになる。においだけで咽(むせ)かえりそうだ。 「うまいですか」 正確にはひとり見ていて、夢中でかぶりつく彼女の隣に戻るとまた嬉しそうに眺めている。 「とっても」 おいしいです、そう言いかけたコロカントの口の端から思わぬ一滴がつうと顎にしたたって、あ、と慌てて掌で拭おうとした彼女の手を男は素早くつかむと、 「俺はこっちを食います」 べろんとその滴をなめとってにんまり笑った。 「バラッ……、」 「姫。動いちゃだめですよ。桃が落ちちゃいますからね」 一言で彼女を押しとどめて、動けなくなったところを好き勝手にバラッドは伸ばした舌でなめていく。顎から頬にうつり、それから、かすかに震えている唇にもう一度口づけた。 触れるだけだった先ごろのものとは違い、今度は口中にまで舌は入り込んで、それにくまなくなめまわされる。 「桃の味がします」 「バラッド、だめ、だめです」 「なんでですか。鍵はかけましたよ」 「桃が、」 切羽詰まった制止をかけると、男が怪訝な顔をする。けれど彼女が言いきる前にするりとすべって、勢い思わず落としそうになった桃を、 「おっと」 口づけながらも見越していたのか、差しだした皿で男はすくいとると、これで大丈夫ですね、とほくそ笑んだ。 「こっちも食わせてください」 「あ」 器用に皿をカウンターへ置くと、彼は解放されたコロカントの手をそのまま口元へ持って行き、つい先ほど彼女がしたのと同じように口を開け、ぱくんと彼女の手指を食んだ。 もちろん歯はたてない。 男の口中はなまあたたかい。自分の指が舐めしゃぶられている感覚が妙になまなましくて、ぱっと彼女の頬に血がのぼる。なめられている側が手持無沙汰で、彼の動きを見下ろせてしまうのが、また問題だと思う。 上目づかいで、すくいあげるようにこちらを眺めてくるのもたちが悪い。 彼にならって見返していたら、茹だってしまいそうだ。 慌てて目をそらすと、視界への暴力はなくなったけれど、その分、肌の感覚が過敏になって、よけいに状況が悪化したような気がするコロカントだ。 果汁のついた手指を舐めていたバラッドの舌は、そのまま手首へと移動して、ゆっくりと腕を這いあがってくる。 かかる息と舌使い、そうしてたどっていった後のひんやりとした感触に、ぞくぞくと肌が粟立って、知らずうすく開いていた口からかすかな息が漏れた。その息は熱い。 ふ、とそれに吸い寄せられるように、彼の唇がまた戻り、むちゃくちゃに口づけられる。普段からコロカントより高い体温の男が、酒が入っている上に興奮して余計に熱い。不愉快なほどだ。 ……ああ、食われてしまう。 抵抗しようとして腕をわずかに突っ張ると、飲みこみきれない唾液がさっきの桃と同じように彼女の顎へ伝って、ますます動悸がはやくなった。 ……こんなところで。 もっときちんと抗いたいのに、頭がどうにもぼんやりしてうまく抗議の声をあげることができない。口づけの合間に、むずかるような声を漏らすことができただけだ。 男の腕が彼女をゆっくりと押し倒し、カウンターに背が触れてようやくあ、と自分の状況に気がついて、せめて一言文句を言おうと口を開きかけたところに、男が再び口づける。その口づけと共に今度はなにかが口に押し込まれて、彼女は目を白黒させた。 いつの間にか男がひと口、齧(かじ)りとった桃だ。 生ぬるいそれが押し込まれ、飲みこめずに喘ぐと、男の舌でつつかれて、互いの口を行き来する。つぶさない程度に上に覆いかぶされて、桃の芳香と男の香油、そうして煙のにおいにくらくらとした。今日はひと口も飲んでいないのに、酔ってしまいそうだと思った。 気付いたときには胸元がはだけられていた。さすが手なれていると言ってもいいのかどうか、彼女が悩む間もなく、バラッドがそのあらわになった乳房へ頬ずりする。 「やわらかいなぁ」 「……バ、」 「ここならいくら頬ずりしたってかぶれませんね」 先ごろの桃まけの話を思い出したのだろう。男がくすくすと笑いながら、頬やら顎やらで胸のふくらみを刺激する。 彼の整えた顎髭がさりさりと胸の頂をかすめて、ぴくんとコロカントの肩が揺れた。 「おや」 男はそれを見逃がさない。 「……ここ?」 同じ仕草をもう一度くりかえして、彼女の体がちいさく跳ねるのを楽しんでいる。 「バ、……バラッド、」 「はい。……気持ちいい?」 「きき気持ちよくなんかありません。ただくすぐった……ひゃ、」 なけなしの抵抗を見せようと彼女が口にした否定は、男が頬ずりから直接先端を口にくわえたことでかき消えてしまった。 ずんと腰のあたりに重い衝撃が走り、ああもうだめだなとコロカントは抗議をあきらめる。 隠そうとしたところで、経験値の多い彼と自分とでは、はなから勝負はついているのだ――ただ素直に認めたくはないだけで。 指と同じように口の中でころころと転がされて、むず痒いような快感がわきおこった。なにかに爪を立てて徐々に蓄積されるそれを逃がしたいが、バラッドに立ててはいけないと思う。 けれど、すがるように伸ばした爪先がカウンターの板をかりりと掻く音を、彼は聞き逃しはしなかった。 「……いけません」 爪が欠けてしまうでしょう。 そっと彼の骨ばった手で握られ押さえられ、逃がすすべがなくなる。そのまままた乳房への愛撫を再開されて、コロカントは頭を左右にした。 「バ、バラッド、」 「はいはい」 「バラッド……!」 次第に高められる体にあらがうように、彼女はやや声を荒げて叫んだ。 「なんです。気持ちいいのだめですか」 真面目に聞こうとしない男の顔を、ぐい、と掌で押し上げると、不服げな表情でぼやかれる。 「そそ、そういうこといってるんじゃありません」 「じゃあなんです、?」 うっかり力をゆるめると、すぐにいたずらしようとする彼の手をぎゅっと握り返して、コロカントは大きく息をひとつ吐いた。 「つまり、その、……ここはお店ですから、……、」 彼女の言葉を受け、ああ、と眉間にちいさくしわを寄せていた男が頷く。 「なるほど。お楽しみの続きは、ずっぷりねっぷりベッドで楽しみたいと」 「そんなこと言ってません……!」 わざとあからさまな言葉で恥ずかしさをあおるのだ。本当にやめてほしい。 真っ赤になってコロカントがきぃきぃわめくと、はいはい、と心得顔で体を起こした男が、彼女の膝裏に手をあてすくい上げ、簡単に持ち上げた。 「……うーん。相変わらず軽いなあ。……ちゃんと食べてます?」 重さを確かめるように抱えた彼女を上下に揺さぶって、バラッドがそんなことを言う。 「食べてます。食べてます。あの、ですけど、あの、ちょっと、そんなに簡単に抱えないでください」 「……なんでです?嫁さん抱っこしたらいけない、なんて法はないでしょう。ないですよね?」 あっても自分は破りますけどね。おかしなところで自信満々にきっぱり言い切っている。 「だって、重いです」 「だから重くないんですってば」 言って、ばたばた暴れるコロカントを抱えたままだ。放す気はないらしい。 そうして店の奥へ足を進めた彼の姿を、どこかで見たことがあるような気がした。降りることをあきらめた彼女が、ふと黙り込むと、急に静かになった彼女をいぶかしんだらしい男が、こちらを窺っている。 「どうしました」 むりやり抱えるから怒りました? 緑の目に、心配そうな色をにじませている。 「いいえ。怒っていません」 答えて彼女はバラッドのほくろのあたりへ手を伸ばしながら、ミシュカさんに、とちいさく呟いた。 「え、ミシュカ」 「はい。ミシュカさんにも、前こうして運ばれたことがあったなって。あのときは、……、……そうですね、あのときは、……、今とはまるで、ちがいましたけれど」 こんなふうに、彼の腕の中におさまって許される日が来るなんて思わなかった。 あのときはただの他人でしかなかった。 他人の空似(そらに)、バラッドにそっくりなだけの彼に迷惑をかけてはいけない、そんな思いばかりで、ぎこちなくてたどたどしいものでしかなかった。 確率なんてものは知らないけれど、好きで、会いたかった相手ともう一度会えて、しかもその相手から思ってもらえるなんて、――なんだかもう夢みたいだなと思う。 なんとなくしみじみした気持ちになって、黙ってバラッドの目元を撫でていると、勘違いしたらしい彼が、 「……やっぱりちょっと怒ってます、?」 不安そうに聞いた。 「怒るって、なにをですか」 「……ですから、そのう……、あのとき、自分がミシュカと名乗ってあなたを騙したこと」 「いいえ」 おずおずとたずねられ、きっぱりとコロカントは首を振った。なにが正しいだとかそんなことは彼女に判らない。誰が決めるものでもないのだろうと思う。 あのときは、きっとあれが正しかったのだ。 「バラッド」 「……はい?」 「ミシュカさんも、わたしのこと好きですか?」 男の仕事は歌うたいだ。そうしてイツハァクの町ではミシュカとして生きてきた。だから、なじみの客たちは彼のことをいまでも歌うたいのミシュカ、と親しげに呼ぶ。 仕事の上では彼はミシュカと呼ばれて生きているし、コロカントやグシュナサフからはバラッドと呼ばれて生きている。 もともと多面性の男だった。今さらひとつふたつ名前が増えたところで、本人もたいして気にしていないようだ。 彼女がたずねると、ええ、と彼は一瞬困惑し、それからすぐにじっと彼女を見つめかえして、 「……そうですね」 静かに頷く。 「自分は、自分の全部であなたが好きですよ」 そんな赤面ものの殺し文句をさらっと言ってのけるのだから、たちが悪い。実際コロカントは、困らせるためだけに言ったようなものだったのだ。姫ぇぇ、だとか情けない声で言うのを若干期待していたので、聞いた彼女の方が逆に恥ずかしくなってしまう。 「……姫は、」 墓穴を掘り、ばたばたするのをやめて男の胸に顔をうずめていると、いつの間にか二階への階段を上っていた。彼女を抱えたまま、器用に足でドアを開け、男がたずねる。 「自分といて楽しいですか」 「楽しいなんてものじゃありません」 バラッドにとっては勝手知ったる部屋だ。引き払ったあともこうして泊まることもあったので、多少の着替えを残してある。 ベッドにそっと下ろされたコロカントは、男のくせのない赤毛をくんと引っ張り、自分の方へ引き寄せながらそっと笑った。 「とってもしあわせです」 「……そう、」 告げた相手の顔に、一瞬走ってすぐに隠された苦みを、彼女は目ざとく見止めている。そうして、あ、と思った。 こういう、些細なしぐさに、今までなかった彼が気を許す瞬間が見えるのだ。 男はたしかに以前より雰囲気がやわらかくなった。つまりそれは、コロカントに対してガードがゆるくなったということだ。それは彼が意図的にしていることなのか、それとも自然にそうなってしまったのかまでは判らないものの。とにかく彼は、今までとは違った表情をほんのすこしだけ彼女にのぞかせることがある。 それが今だった。 もうしばらくのあいだ、彼はなにかに悩んでいた。彼女もなんとなく気付いていたのだれど、聞いてはいけないような空気があったから黙っていたのだ。 「バラッド」 「……はい、」 自分と彼は夫婦だ。だから、相手が苦しんでいるなら、悩みを聞かせてほしい、共有したいと彼女は思う。 けれどそう願う同じ強さで、自分と彼は別の生き方をしてきた人間で、すべてを聞き出せばそれでよしとはいかないこともわかっている。 だから彼女はたずねるかわりに、男をじっと見た。見て、それでなにが判るわけではないけれど、それで彼の苦しみが少しでもやわらぐことがあればいいのにと思う。 「姫」 じっと彼を見つめていると、片眉を上げた男が、すこし弱ったように笑った。 そうして、掌でそっと視線をおおわれてしまう。 「見んでください」 「見るのはだめですか」 「だめじゃないんです。姫の目はとてもきれいだ。好きです。でも、見透かされるので今は困ります」 「見透かしてなんかいないですよ」 自覚がなくて、目をおおわれたまま彼女は首をひねる。そんなにきつい視線でも送っていただろうか。 「……自分は底の浅い人間ですからね」 彼は言った。 「その、姫の、吸いこまれるみたいな深い目に見られてると、なにもかも、全部、包み隠さず話してしまいそうになって怖いんです」 「――、」 じゃあ話してくださいとはいえなくて、コロカントは口をつぐんだ。話せるものなら、バラッドはきっと洗いざらい、もう話していただろう。 話してくれないからこそ、聞けない。 そのままうまい言葉が出てこない唇を、彼が唇でふさいでしまう。 「バラ、」 ついばんではほんのわずか離し、離してはまた彼女がそこにいるのをたしかめるように、男は口づける。 視界を閉ざされているので、男がいまどんな顔をしているのか、彼女は知らない。知らない、けれどきっと、まっすぐ立てないほど酔いくらった先日と同じように、途方にくれてべそをかいたようになっているのだろうなと思う。 ――あなたはなにを苦しんでいるんだろう。 「だいじょうぶ」 なにが大丈夫なのか自分でもよく判らないまま、いい子いい子とコロカントは彼の頭を掻きなぜた。 こうすることで、すこしでも泣いている大きな子供が、泣き止むといいのだけれど。 「だいじょうぶ。……だいじょうぶですよ」 ついばむ口づけがやがて深いものへと変わり、むきだしにした肌に男が顔をうずめ、温もりをたしかめるようにゆっくりと圧し掛かってきても、彼女は何度も同じ言葉を彼の耳に吹き込みつづけて頭を撫ぜた。
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121 :完璧な彼女 :2010/07/14(水) 05 51 30 ID t60Z21BS どうも、初めまして。 訳あって名前は出せませんがこのスレに彼女との馴れ初めを投稿させて頂きます。 彼女の名前は……麗奈(れいな)とさせて貰います。 麗奈と僕は中学校から高校まで同じ学校、クラスが同じでした。 麗奈は家柄、容姿、人望、学力と全て完璧な生徒でした。 家も見た目も成績も普通な僕となぜ付き合う事になったのか…それは彼女が僕に告白して来たからです。 「わたくしとお付き合いして頂けませんか?」 告白の言葉はこんなにあっさりしたものだった。 普通の男子だったら即OKを出して居ただろうが、僕は 「えっと、すみません…余り話した事はないのでこの場では何とも…でも、お友達になりませんか? 僕は麗奈さんの事は詳しく知りませんから…」 僕は僕なりに彼女を傷付けずに断ろうと思った。 でも、彼女の反応は意外だった。 「そうですね、先ずはお友達から始めましょう」 とにこやかだった。 それから僕は彼女と昼食を取ったりよく遊びました。 ある日、不思議な事件が起こりました。 クラス委員の高梨(仮名)さんが事故に合い死亡したそうです。 高梨さんとは事故の前日に話をしていましたから、かなり気落ちしました…。 ふと、ある噂が耳に入りました 『高梨の死は事故ではなく強姦の末、麻薬中毒にされて死んだ』 のだと。 気落ちしていた僕の気持ちを更に下げる噂でした。 僕は思わず彼女、麗奈にこの事を話しました。 すると彼女は 「大丈夫、貴方は何も悪くないわ。 ただ貴方は高梨さんとお話していただけ…でも、優しいのね」 彼女は僕を抱きしめ、頭を撫でてくれました。 これからでしょうか、彼女と付き合い始めたのは。 彼女は本当に僕の事は何でも知っている。 彼女が側に居てくれるだけで全てが解決してしまう。 そして彼女と結婚しました。 それまでに親友、先生、両親、先輩を亡くしましたが僕は…僕達は結婚までいたりました。 でも、今は幸せです。 僕の周りで大切な人が死んでしまいましたが幸せを噛み締めています。 最後にこんな話をするのは可笑しいのですが、5年前の大学生失踪事件を知っている方…何か知っていましたら教えてください。 居なくなったのは大切な大切な妹だったので…